2013年7月16日火曜日

放射能安全論は何処から来たのか

 12日の東京新聞に、「国 除染終了のまやかし・・・」と題した「こちら特報部の記事が載りました。
 記事では、国直轄の除染が終了した福島県田村市都路地区の住民に対し、まだ除染目標値に届いていないのに、政府側帰還を促すかのような提案をした事例を引いて、原発事故下の日本にこうした間違った「安全論」が何処から来たのかについて考察しています。

 そしてICRPさえ低線量被ばくについて「閾(しきい)値は存在しない」という立場であり、低線量被曝でもがんなどの健康被害があり得るというのがいまは国際常識となっているのにもかかわらず日本国内に「被曝量が100ミリシーベルト以下なら健康に影響がない」という驚くべき「閾値論」が流布されているのは、福島原発事故の直ぐ後に、放医研が100ミリシーベルト汚染区域に線を引き、それ以下なら「安全」とする早見図を作成して配布したことが大きいと指摘しています。(放医研独立行政法人放射線医学総合研究所 閾値論のミス訂正されたのは1年後)

 もうひとつ(記事ではあからさまには触れては居ませんが、)原発事故の直後に福島医大に招聘された山下俊一副学長が、福島県下で盛んに「100ミリシーベルト以下なら健康に全く影響ない」と講演して回ったことが、放医研早見図と同等以上の影響を及ぼしたものと思われます。
 福島医大の山下俊一教授や鈴木真一教授はいまもその主張を撤回していませんし、国内には他にも確信犯的にその主張を続ける人たちは沢山います。
 しかし1ミリシーベルト以上の被曝を認める考え方が現行法や国内の諸基準から逸脱していることは、武田邦彦教授が繰り返し強調しているところです。

 以下に東京新聞の記事を紹介します。
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国 除染終了のまやかし 被ばく「自己管理」に怒り
東京新聞「こちら特報部」 2013年7月12日
 原発事故下の日本に、なぜか放射能の「安全論」がいまだはびこっている。国直轄の除染が終了した福島県田村市都路(みやこじ)地区の住民に対し、除染目標値に届いていないのに、政府側はそのまま帰還を促すかのような提案をしたという。間違った「安全論」はどこから生まれるのか。 (中山洋子)

    (中  略)  ( 田村市都路地区住民への国の提案に関する部分は省略します。
               その概要は下記でご覧いただけます。
    2013年7月2日「『被曝は1日8時間、被曝量は自己管理をと政府が提案
 
 除染をすることで、なるべく線量を下げ、住民が安心して生活できる環境を整えるというのが、国が「約束」したことだったはず。それが、なぜ、不十分な除染でも帰還できるという方向になったのか。底流には、いまだにはびこる誤った「安全論」がある。

 岡山大大学院の津田敏秀教授(疫学)は、専門家たちのミスリードによって「低線量被ばくではがんにならない」という誤解が広まったと指摘する。
 独立行政法人放射線医学総合研究所(放医研)が作成した「放射線被ばくの早見図」は、福島事故後の二〇一一年四月五日に公開され、繰り返し引用された。津田教授は、この早見図には重大なミスがあったという。

 図表の真ん中付近が一〇〇ミリシーベルトを指し、赤いラインで区別。それより低い被ばくでは「がんの過剰発生がみられない」と明記されていたのだ。同様の図は、ほかにも出回っていた可能性もある。
 ICRPさえ、低線量被ばくについて「閾(しきい)値は存在しない」という立場。閾値とは、ここまでなら安全という限界値のこと。低線量被ばくでも、がんなどの健康被害があり得るというのが、現在の国際的知見の「常識」となっている。それなのに、放医研の早見図は「一〇〇ミリシーベルト」に線を引き、それ以下は「安全」と太鼓判を押していた。
 このミスが訂正されたのが一二年四月。現在は「がんの死亡のリスクが線量とともに徐々に増えることが明らかになっている」と解説されている。
 訂正前の早見図は、今でも流布したままだ。岩手県や長野県などのサイトではいまだに間違った早見図が載っている。
 津田教授は「そもそも日本の研究者の多くが、『統計的に有意差がない』ことと『影響がない』ことを混同している」と懸念する。「有意差」とは、偶然の確率が低い場合に「差がある」と考える統計学の方法のこと。人間を相手にした研究では、有意差がなくても影響が出るケースも多く、分からない段階で「影響がない」と排除することは危険とされている。医学研究の基礎で教科書でも警告されている誤りに陥っているのが、日本の現状という。

◆影響なしが繰り返され
 「影響がない」と簡単に言ってしまう体質は、福島県の小児甲状腺がん調査でも繰り返されている。事故当時十八歳以下の子どもたちから疑いも含めて二十七人のがんが見つかっているのに、調査にあたった福島県立医大の鈴木真一教授はここでも「影響は考えにくい」。チェルノブイリ事故では、発がんが爆発的に増えたのが四~五年後からで、広島や長崎のデータでも低線量被ばくの影響がはっきりしていないためだ。だが、津田教授は「広島と長崎を合わせた被爆者と比べて、福島原発事故で被ばくした人々の数は圧倒的に多い。広島や長崎で分からなかったことが、福島事故を調べることで分かる可能性がある」と指摘し、こう続ける。
 「専門家なら『影響はない』などと極端な意見を言うのではなく、きちんとデータを分析し、これからどのようなことが起こりそうで、どんな対策が必要かを分かりやすく解説すべきだ」

<デスクメモ> こんなところまで、「自己責任論」が及ぶとは。帰還するなら「自分で線量を測って」なんて悪い冗談のようだ。政府側はそんなつもりはないというが、不安だらけの住民が責任転嫁と受け取るのも無理はない。帰りたくても帰れない。住民はジレンマにさいなまれている。あまりに冷たい仕打ちだ。 (国)