2013年10月13日日曜日

支援法 基本方針の閣議決定 被災者の声を聞かず

 政府11日に決めた「子ども・被災者支援法」の基本方針は、約5000ものパブリックコメントがあったにもかかわらず、ほぼ修正のないものでした
 支援法には基本方針を策定する際に、被災者の意見を反映することがうたわれています。しかし国はパブリックコメントをなにも吸い上げていません。

 パブリックコメントで一番多かった意見は、公聴会被災者の意見の反映をさせること」と「支援対象地域見直すこと」でした。しかし、復興庁の「見解」は、支援対象地域を年間1ミリシーベルト以上の地域に指定せよと求める意見に対し、「1ミリシーベルトの水準は、健康に関する安全危険の境界を示す線量ではないいうものでした。

 復興庁にはもともと被災者や市民の思いを受け入れる意思などありませんでした。
 そうしたお粗末な基本方針案をそのまま追認した閣議決定に、怒りの声が上がっています。
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「被災者分断された」 被災者支援法の基本方針に異論
東京新聞 2013年10月12日
 十一日に閣議決定された子ども・被災者支援法の基本方針。栃木県は、施策ごとに設定されて国の支援が限定的な「準支援対象地域」にとどまり、県民の間には失望が広がった。県北部で放射能への不安の聞き取りを続けている宇都宮大国際学部の清水奈名子(ななこ)准教授(国際関係論)は、政府の対応の問題点を厳しく指摘した。 (大野暢子)

 今も年間一ミリシーベルト以上の放射線量を観測する地点が残り、住民の不安が続く県北部。福島県と隣接する地域だが、同県の三十三市町村のような「支援対象地域」ではないため、健診などのケアが十分受けられない不安があり、他地域に避難した場合の住居費の支援も受けられない見通しだ。

 「支援法の条文で一律に『被災者』とされた人たちが、支援と準支援に分断されてしまった」と清水准教授。
 清水准教授の聞き取りでは、母親たちから「自宅周辺にホットスポットがある」「原発事故直後、知らずに子どもを外で遊ばせていたことを悔やんでいる」などの深刻な悩みが寄せられている。福島の子どもたちと同レベルの健康調査や健診を求める声は多い。
 清水准教授は九月、復興庁が福島市で開いた基本方針案の説明会に参加し、強い違和感を覚えた。事前の告知は数日前に突然始まり、「参加していい」という連絡が来たのも前日だったという。
 会場内では複数のガードマンが警戒。住民が基本方針案への疑問を発言した際、場内に起きた拍手に対し、主催者側が「拍手をしないで」と注意するなど異様な雰囲気だった。
 「(支援法の)条文には、基本方針の策定時にはあらかじめ被災者の声を聞くようにと書いてある」と清水准教授。「公聴会も開かず、(二十五日間の)パブリックコメントだけで強行された。法律の理念は完全に踏みにじられた」と断じる。

 清水准教授が「いちるの望み」と話すのは、基本方針が対象地域を見直す可能性に言及している点だ。「栃木では基本方針への不満がないと判断されるのが一番危険。県民からの声を絶やさないことが大切」と呼び掛けた。

◆「福島のみ」おかしい 行政、民間団体からも
 閣議決定された基本方針に対しては、行政、民間団体を問わず、県内では不満が噴出している。特に、福島県と県境を隔てて支援対象地域から外れたことや、住民の声をどこまで反映したのかという点に批判が集中している。

 福島県と隣接する栃木県の原子力災害対策室の担当者は「福島県しか支援対象地域にならないのは、非常におかしい」と憤る。
 基本方針では、「準支援対象地域」は施策ごとに設定されることに関し「本当に必要な施策を必要なところにやってもらえるのか、復興庁が各施策の実務を担う省庁に対してリーダーシップを発揮できるのか、注目している」と厳しい口調で話した。
 那須塩原市の住民団体代表、西川峰城さん(63)は、政府は民意抜きで閣議決定を急いだとして「民主主義国家の感覚とは思えない」と、厳しい視線を注ぐ。
 「パブリックコメントをわずか二週間で締め切った特定秘密保護法案もひどいが、後に国会審議が控えている。基本方針は閣議決定をしてしまえば、すべてが決まる。やり方がひどい」と不信感を募らせた。 (石井紀代美、神田要一)

被災者支援法基本方針を決定 施策拡充せず被災者に不信
河北新報 2013年10月12日
 政府が11日に決めた福島第1原発事故の被災者を支援する「子ども・被災者支援法」の基本方針をめぐっては、福島県以外の住民らが要望した支援対象地域拡大は認められず、施策拡充も実質的になかった。策定経過は曲折を重ね、被災者らに強い不信感を残した。

 復興庁によると、8月末に示した方針案には約5000件の意見が寄せられた。うち支援対象地域の見直しが約2700件、方針案撤回などが約2000件を占めた。政府が東京と福島市で開いた説明会でも同様の意見が相次いだ。
 方針案は修正されたが、ほとんどは「誤解されている部分が多く説明を加えた。施策の追加はない」(復興庁)という文言の追加にとどまる。

 復興庁は、民間住宅を借り上げる「みなし仮設」入居期間の2015年4月以降の延長を修正点の一つに挙げる。ただ「代替住宅の確保状況を踏まえて適切に対応する」との表現にとどまり、期限後も追い出すことはしないという従来の方針を記したにすぎない。
 支援対象地域を福島県の33市町村に限定し、宮城、山形など隣接県を施策に応じて準対象地域に指定する枠組みもそのまま。宮城県などは具体的な放射線量を基準に対象地域拡大を求めたが、復興庁は「具体的な線量基準を設けないために対象、準対象を設定した」と譲らなかった。

 基本方針は昨年6月の法成立後も策定されず、ことし8月、宮城、福島、栃木3県の住民らが未策定の違法確認や国への損害賠償を求める訴訟を起こした。直後に方針案が示された。この間、策定担当の復興庁幹部が短文投稿サイト「ツイッター」で被災者支援団体などに暴言を繰り返していた不祥事が発覚。被災者の不信感を増幅させた。
 方針決定を受け被災者支援団体は東京で記者会見。妻と長男(7)、長女(1)と郡山市から静岡県に避難している長谷川克己さん(46)は「子どもたちを守る法律だと期待していたが、法の理念が骨抜きにされた」と批判した。
 根本匠復興相は記者会見で「意見公募や説明会で丁寧に声を聞き方針を決めた」と強調した。
 
被災者置き去り「支援法」  意見4900件 聞いただけ
東京新聞 2013年10月12日
 東京電力福島第一原発事故を受けた子ども・被災者支援法の「基本方針」が十一日、被災者らの反対を押し切って閣議決定された。盛り込まれた内容のほとんどが既に実施済みの施策である上、国民や、福島県に近い関東の自治体などから寄せられた四千九百六十三件の声や要望を聞き入れて見直したり追加したりすることもなかった。 
 昨年六月に成立した支援法は、被災地に住み続けた人も避難した人も、どの立場でも国が生活や健康面で必要な支援をすると理念を定めた法律。その支援対象や中身を具体化するのが、基本方針だ。

 法律は対象を、放射線量が「一定の基準」を上回る地域の住民と規定。被災者や自治体は、一般人の被ばく限度である年間一ミリシーベルトを基準にするよう求めたが、復興庁は特定の線量を定めず「相当な線量」と表現し、対象を福島県東部に限定。ほかの線量の高い自治体は「準対象地域」とし、法律が保障する総合的な支援でなく、一部施策の対象にした。

 こうした対象地域の決め方に被災者や自治体の反対は強く、八、九月に行われたパブリックコメント(意見公募)でも一番多い、二千七百七件の意見が集まった。しかし復興庁は「織り込み済み」とし、見直さなかった。
 千四百八十一件の意見が集まった健康や医療では、国の支援がない福島県外の被災者の健康管理について、子どもたちにバッジ型の個人線量計をつけて被ばくデータを集める事業を盛り込んだ。しかし、要望の強い健診の実施は、今後開く有識者会議に委ねた。
 ほかの意見も、復興庁は「誤解に基づくものが多い」と判断。内容の追加はなく、文言の修正にとどめた。

 法律制定後、なかなか基本方針策定の動きはなく、国の担当者は被災者団体の集会でも「めどは立っていない」と繰り返した。しびれを切らした一部の被災者が今年八月、国の不作為を問う訴訟を起こすと、八日後、基本方針案が発表された。
 その後、国が行った意見聴取は二回の説明会と、意見公募だけ。その結果も閣議決定まで公表せず、被災者らの強い反発を招いた。
 決定を受け、意見や要望を訴えた被災者からは「県境で線引きは残念」(福田富一栃木県知事)、「子どもの健康を無視する決定」(茨城県取手市の市民団体)などの声が出た。