2014年1月14日火曜日

原発:30キロ圏、避難に最長6日 住民の被曝は不可避

 原発が地震との複合で重大事故を起した場合、30キロ圏内の住民全員が避難するには、国内の全原発において少なくとも半日以上掛かることが分かりました。
 
 民間団体が30キロ圏内の市町村を対象に、車両登録されているバスの3割、マイカーの5割が避難時に使われると想定。全住民が圏外へ同時に移動するとし、渋滞の発生などを考慮する交通工学の手法で分析試算したもので、25日の「交通権学会」の研究会で発表します。
 
 ちなみに柏崎刈羽原発の地震との複合重大事故時の避難所要時間は66.5Hrで、これは全国17原発の中で浜岡142.5Hr、東海第二132Hr、島根99.5Hrに次ぐワースト4位です。
 
 福島第1原発事故時には、5キロ圏外の富岡町が避難を始めた時、登録されたバス約100台の大半が他町に出払い、確保できたのは数台でした。そんな風にバスや運転手の確保に手間取れば避難はさらに長引くし、雪の影響、行楽シーズン、ガス欠で立ち往生した車による渋滞など、試算で考慮していない悪条件が加われば、より避難に要する時間は長期化します
 
 重大事故時に住民が被曝を避けられる時間内に非難し終わることは不可能という実態を明らかにした貴重な研究です。
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原発:30キロ圏、避難に最長6日 渋滞激化で ― 民間試算 
毎日新聞 2014年01月14日
 国内の全原発で、30キロ圏内の住民全員が避難するには少なくとも半日以上かかるとする試算を、民間団体「環境経済研究所」(東京都、上岡直見(かみおかなおみ)代表)がまとめた。
 
 地震との複合災害の影響などで避難路が国道のみに限られる場合、避難完了までに東海第2原発で5日半、浜岡原発で6日近くかかる。全原発を対象にした分析は初めてという。外部に放射性物質が放出されるような事故時に、すべての住民が被ばくを避けられる時間内に避難し終えることが不可能に近い実態が浮かんだ。【山田大輔】
 
 今月25日、交通政策を研究する「交通権学会」の研究会で発表する。
 政府の原子力災害対策指針で事故時の避難計画が必要な30キロ圏内の市町村を対象に、車両登録されているバスの3割、マイカーの5割が避難時に使われると想定。全住民が圏外へ同時に移動するとし、渋滞の発生などを考慮する交通工学の手法で分析した。被災や緊急車両通行のため高速道などが使えず、国道のみが使える場合と、国道に加えて高速道や主要地方道もすべて使える場合との2通りで試算した。
 
 その結果、国道のみで避難する場合、避難完了には最短の泊原発(北海道)で15時間、最長の浜岡原発(静岡県)で142時間半かかると推計。高速道などが使える場合でも、最短の大飯原発(福井県)で8時間、最長の浜岡原発で63時間かかると算定した。
 
 浜岡原発では、圏内人口が約74万人の割に、道路が限られているため、マイカーによる渋滞の激化で、バス輸送が難航することが長時間化に拍車をかけた。県庁所在地を対象に含む東海第2原発(茨城県)、島根原発(島根県)でも、同様の理由で避難が長引く結果が出た。
 
 試算は、前提を単純化しているが、一部の自治体が公表している詳細なシミュレーションと同様の傾向が出ている。北海道は泊原発の30キロ圏内の避難に12時間半かかると推計。茨城県も東海第2原発の30キロ圏内で17時間、常磐道が通行止めなら39時間半としたほか、京都府は高浜、大飯両原発の30キロ圏内で最大29時間20分と試算した。
 
 交通権学会副会長でもある上岡代表は「再稼働に向けた動きが本格化しているが、各原発周辺の道路事情は、福島事故後も抜本的に改善されていない」と問題視する。
 
◇被ばく回避へ対策急務
 福島第1原発事故を受けた国会事故調査委員会報告書によると、重大事故発生から格納容器の損傷、放射性物質の放出までに要する時間は推定3時間〜8時間半。今回の試算は、各原発でこの時間内に30キロ圏内から全員避難させることが難しい現実を突きつけた。原子力防災は原発の規制基準とともに「安全の両輪」とされ、今後の各自治体の防災計画づくりが再稼働を左右する可能性がある。
 
 政府の原子力災害対策指針では、5キロ圏内で事故後速やかに全住民を避難させ、30キロ圏内で1日以内をめどに放射線量を計測し、段階的に避難するよう規定。自治体は指針に沿って地域防災計画を策定している。
 
 対象となった原発の30キロ圏内では、いずれも6〜7人に1人が子どもや障害者、高齢者、妊婦などの「交通弱者」だ。仮にその全員をバスで運ぶとすると、3〜16往復ものピストン輸送が必要とされ、バスや運転手の確保に手間取れば避難はさらに長引く。学校や職場、田畑などに家族が分散している昼間の移動、雪の影響、行楽シーズン、ガス欠で立ち往生した車による渋滞など、試算で考慮していない悪条件が加われば、より長期化する。
 各自治体は、業界団体と協力し輸送手段の確保に努めているが、バス不足を補うものの渋滞を招くマイカーをどこまで許容するのか判断は難しい。さらに、ガソリン供給や交通誘導の在り方など、どう対応できるのか不確定な要素も多い。
 
 福島第1原発から5キロ圏外の福島県富岡町が事故で避難を始めた時、登録されたバス約100台の大半が他町に出払い、確保できたのは数台だったという。過去の経験を共有するとともに、避難道路の早急な整備など抜本的な対策を迫られそうだ。【山田大輔】