2014年3月26日水曜日

住民の実測被ばく線量 想定外の高さで公表せず 

 福島原発事故に伴う避難指示の解除予定地域で昨年実施された個人線量計による被曝量調査について、当初の想定より高い数値が出たため、結果の公表を見送っていたことが24日、分かりました。
 福島の3カ所で行った内、川内村の推計値(=屋内被曝16時間+屋外被曝8時間と想定した推計)が2.6〜6.6ミリシーベルトと高かったため、公表を見送ったものです。
 
 住民の被曝量はそこの空間線量を基準にして計算するものですが、それでは福島県の高度汚染地区ではとても低い値で収まりません。そこで原子力規制委員会の専門家チームは、実際に線量計を身につけて測った値が、空間線量から推定される値の3分の1~7分の1に低くなる傾向があるのに着目して、住民に線量計を携帯させて実測してもらうという異例の方法1を、昨年決めて実行しました。
1 2013年11月12日「住民の被ばく量は線量計で実測すればよいと・・・」
 
 ところが期間を限定して実測した結果は上記のとおりであったため、結果を公表せずに、被曝量の推計方法を今度は屋外被曝時間を6時間に短縮するなどの操作をしているということです。
 
 通常、木造1~2階建家屋による、浮遊物質のガンマ線の低減係数は0.9、地上に沈着した放射性物質のガンマ線の低減係数は0.4などとされていますが、東京新聞が福島の汚染地区で屋内と屋外の空間線量を実測した結果、屋内も屋外も殆ど変わらなかったということがありました2
 2 2013年8月20日避難地域 屋内の放射線量は全く減少していない 
 原発事故の直後には確かに屋内では被曝は低減されますが、長時間が経過した家屋では外気が侵入してくるため低減を示さなくなるということは、当初から言われていました。 
 従って屋内被曝の推計に当たり、建物による低減率をどのように設定しているのかも問題になります。
 いずれにしても当初の目論見が外れからといって、今度は屋内・屋外の時間比率を変えて推計するなどは邪道であり、独協医科大の木村真三准教授は「屋外8時間・屋内16時間の条件は一般的なもので、それを変えること自体がおかしい」と指摘しています。
 
 ことは住民たちが健康に過ごせるかどうかに直結する問題なのに、専門家チームはなぜこのように原則を逸脱して政治的に振舞うのでしょうか。これでは「専門家」の権威は何もなく、その名が泣くというものです。
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福島原発事故:被ばく線量を公表せず 想定外の高い数値で
毎日新聞 2014年03月25日
◇内閣府のチーム、福島の3カ所
 東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示の解除予定地域で昨年実施された個人線量計による被ばく線量調査について、内閣府原子力被災者生活支援チームが当初予定していた結果の公表を見送っていたことが24日、分かった。関係者によると、当初の想定より高い数値が出たため、住民の帰還を妨げかねないとの意見が強まったという。調査結果は、住民が通常屋外にいる時間を短く見積もることなどで線量を低く推計し直され、近く福島県の関係自治体に示す見込み。調査結果を隠したうえ、操作した疑いがあり、住民帰還を強引に促す手法が批判を集めそうだ。
 
 毎日新聞は支援チームが昨年11月に作成した公表用資料(現在も未公表)などを入手した。これらによると、新型の個人線量計による測定調査は、支援チームの要請を受けた日本原子力研究開発機構(原子力機構)と放射線医学総合研究所(放医研)が昨年9月、田村市都路(みやこじ)地区▽川内村▽飯舘村の3カ所(いずれも福島県内)で実施した。
 
 それぞれ数日間にわたって、学校や民家など建物の内外のほか、農地や山林などでアクリル板の箱に個人線量計を設置するなどして線量を測定。データは昨年10月半ば、支援チームに提出された。一般的に被ばく線量は航空機モニタリングで測定する空間線量からの推計値が使われており、支援チームはこれと比較するため、生活パターンを屋外8時間・屋内16時間とするなどの条件を合わせ、農業や林業など職業別に年間被ばく線量を推計した。
 関係者によると、支援チームは当初、福島県内の自治体が住民に配布した従来型の個人線量計の数値が、航空機モニタリングに比べて大幅に低かったことに着目。
 関係省庁の担当者のほか、有識者や福島の地元関係者らが参加する原子力規制委員会の「帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム」が昨年9〜11月に開いた会合で調査結果を公表し、被ばく線量の低さを強調する方針だった。
 
 しかし、特に大半が1ミリシーベルト台になると想定していた川内村の推計値が2.6〜6.6ミリシーベルトと高かったため、関係者間で「インパクトが大きい」「自治体への十分な説明が必要」などの意見が交わされ、検討チームでの公表を見送ったという。
 その後、原子力機構と放医研は支援チームの再要請を受けて、屋外8時間・屋内16時間の条件を変え、NHKの「2010年国民生活時間調査」に基づいて屋外時間を農業や林業なら1日約6時間に短縮するなどして推計をやり直し、被ばく推計値を低く抑えた最終報告書を作成、支援チームに今月提出した。支援チームは近く3市村に示す予定だという。
 支援チームの田村厚雄・担当参事官は、検討チームで公表するための文書を作成したことや、推計をやり直したことを認めた上で、「推計値が高かったから公表しなかったのではなく、生活パターンの条件が実態に合っているか精査が必要だったからだ」と調査結果隠しを否定している。
 
 これに対し、独協医科大の木村真三准教授(放射線衛生学)は「屋外8時間・屋内16時間の条件は一般的なもので、それを変えること自体がおかしい。自分たちの都合に合わせた数字いじりとしか思えない」と指摘する。
 
 田村市都路地区や川内村東部は避難指示解除準備区域で、政府は4月1日に田村市都路地区の避難指示を解除する。また川内村東部も来年度中の解除が見込まれている。【日野行介】