2014年3月5日水曜日

日本科学者会議が「原発汚染水問題」にかかわる緊急提言

 3月2日付の記事日本科学者会議が2月11日に「除染にかかわる提言を発表したことを紹介しましたが、同じ日に日本科学者会議は、「『原発汚染水問題にかかわる緊急提言」を発表しています。
    ※  2014年3月2日日本科学者会議が「除染にかかわる提言」を発表 
 
 提言は、原発汚染水問題への政府および東京電力の対策には,とくに地質や地盤,地下水流動の分野についての実態把握や調査・解析が不十分であり,今後も汚染水タンクからの汚染水漏れや汚染された地下水が海や敷地外の陸地に流出する危険があるとするもので、具体的な手法を提示してそれらの実態把握や調査・解析を求めています。
 
 提言の中では下記の事項が指摘されています。
汚染水タンク敷地地盤の安全性が正確に評価されていない(今後も傾く惧れがある)
・敷地の詳細な高低差やそこを走る排水路の経路の詳細が公表されていない
・地震時に原子力建屋などの地盤が液状化して建屋を損傷させた可能性がある
・山側から(発電設備地下を経て)海岸線に至る全域の地下水位の把握と地下水水質のモニタリングがされていない
敷地の外側(内陸側)に汚染地下水が流出している可能性がある
原発港湾内および港湾外において汚染地下水が海底から海に流出している可能性がある
地下水についての詳細で実態に合った三次元流動解析が行われていない
 
 提言には地質学などの術語・専門語が豊富に用いられているため、部外者が正確に内容を理解することはとてもできませんが、少なくとも東電や国がこれまでそれらを解明するための努力を殆どしてこなかったということは窺い知れます。
 
 隠蔽体質の東電は記者会見では「分からない」を連発していますが、国が前面に立つと明言した以上そんなことで済まされるものではありません。提案を真摯に受け入れて、先ずは地下構造や汚染地下水の全容(汚染度の分布とその流出先など)の解明に務めて欲しいものです。
 
 以下に提言を紹介します。  
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「原発汚染水問題」にかかわる緊急提言
2014 年2 月11 日
日本科学者会議 原発汚染水問題プロジェクトチーム
代表 柴崎 直明(福島大学)
【まえがき】
日本科学者会議は,原発汚染水問題への政府および東京電力の対策には,とくに地質や地盤,地下水流動の分野についての実態把握や調査・解析が不十分であり,今後も汚染水タンクからの汚染水漏れや汚染された地下水が海や敷地外の陸地に流出する危険があるとの認識から,以下の緊急提言を公表する。
 
【緊急提言】
1)汚染水タンク敷地地盤の安全性の再評価
・原発敷地内および周辺地域について,原発設置前から現在までのすべてのボーリング・井戸掘削資料,地盤調査資料(詳細な位置情報や標高データ,標準貫入試験・現場透水試験・揚水試験・各種原位置試験・室内土質試験等の生データを含む)を公表すること.なお,これまでボーリング調査が行われていない空白地域については早急にボーリング調査を実施すること.
・以上の結果をもとに,埋め土・盛土分布図,腐植土等の軟弱層分布図,および段丘堆積物分布図(分布範囲や層厚,層相を明示したもの)を早急に作成して,タンク敷地地盤の安全性を再評価するとともに,適切な基礎地盤の安定化対策を検討し実施すること.
・新規の汚染水タンク設置場所を選定する際には,今後の地震や津波,液状化,異常気象による災害等の危険がない場所を抽出する必要があるため,詳細な地形・地質,地下水調査等を実施すること.
 
2)微地形と排水路系統の詳細な把握と海への地表汚染水流出防止対策の実施
・既存の詳細地形図(原発設置前および各種工事前後)をすべて公表するとともに,レー
ザー航空測量(解像度2 m,またはより詳細なもの)を早急かつ定期的に実施して,敷地
内および周辺地域の詳細な地形標高およびタンク設置工事等に伴う地形改変を把握すること.
・敷地内の詳細な排水路系統図を微地形(詳細な地盤標高値および等高線を含む)とともに公表するとともに,前述した詳細地形図と重ね合わせて豪雨時やタンク溢水時に排水がどのように地表面を流れる可能性があるかリスクマップを作成すること.
・現在ある排水路すべてについて構造,最大計画流量,震災等による破損・劣化の有無,
排水路内のゴミや堆積土砂等の状況や改修状況を示すこと.
・敷地内には防火用水池や凹部があり,大雨時には地表流出水がこうした防火用水池や凹地に流入し滞留・地下浸透する可能性があるので,その対策を早急に実施すること.
・大雨時等に排水路内の汚染水が海に流出することを防ぐため,早急に確実な流出防止策を検討し実施すること.
 
3)原子炉建屋から海側での地下地質状況と汚染地下水流出実態の詳細な把握
・原発設置時の地盤改変により原子炉建屋付近では切土,建屋から海側では埋土が行われ,現在の4 m 盤は埋土地盤となっているが,埋土の分布や厚さ・性状などについて既存資料やボーリング調査等により詳細を明らかにすること.
・東北地方太平洋沖地震の地震動により4m盤の軟弱な埋土地盤が液状化等により変形し地下構造物にダメージを与えた可能性があるので,その実態を明らかにすること.
・現在の海側浅層地下水観測孔だけでなく,山側を含めた建屋周辺部についてもボーリング調査を行い,深度別の地下水観測孔を設置して地下水位や地下水の水質についてモニタリングすること
・深度300 m までの深層部についてもボーリング調査を行い地下地質の詳細な状況把握およびコアを使用しての配管等への腐食試験を行うとともに,帯水層区分ごとに地下水観測孔を設置して地下水位と地下水の水質をモニタリングすること.
・これらの結果をふまえて凍土工法の可否や他の遮水工法を検討すること.
 
4)敷地周辺や港湾外を含む汚染地下水流出の厳格な監視
・現在の地下水観測孔は原発敷地内にしか設置されておらず,しかもその分布には偏りがあるので,早急に敷地内の地下水観測体制を拡充すること.
敷地の外側にも汚染地下水が流出している可能性があるので,早急に敷地周辺部において湧水・浸出水の汚染調査を行うとともに,ボーリング調査や地下水観測孔の設置を行い厳格な監視を行うこと.
原発港湾内および港湾外において汚染地下水が海底から海に流出している可能性があるので,海底からの地下水湧出箇所を特定し汚染地下水が流出していないかどうか常時監視すること.
 
5)詳細で実態に合った三次元地下水流動解析の実施
・2013 年11~12 月に経済産業省汚染水処理対策委員会(第9 回~第11 回)が公表した「広域モデル」の範囲は,原発敷地深層部に存在する広域的地下水流動系やその海への流出を検討するためには不十分であり,計算による被圧地下水頭分布の再現性が悪い.解析範囲をさらに拡げ,西側は阿武隈山地との境界付近まで,東側は海岸から5~10 km 先まで延ばすこと.
・モデルの入力パラメータは一般的な透水係数などの設定になっているが,敷地内および近傍での実測値およびその統計的分布範囲を踏まえて,なるべく実態に近い値を入れるべきである.また,非定常計算が部分的に行われているだけであるが,貯留係数あるいは比貯留量を妥当な方法で設定し,しっかりとした非定常計算を行い,現況の実測水位分布や変動をモデルで再現できるようにすること
・地下水の収支計算に重要な影響を及ぼす地下水涵養量の設定が一律値で単純すぎる.少なくともタンクモデル等による解析を踏まえた時系列的な涵養量を与えるべきである.また,土地被覆状態や斜面傾斜,表層地質条件等に応じた涵養量を入力すること.
・境界条件の設定について,海側境界条件が固定条件となっているが,海底からの湧水が推測される情報もあるため,海底地形や海底部のコンダクタンスを設定した境界条件が必要となる.一方,山側の境界条件についても,実際の水文地質条件にあった境界条件にするべきである.南北の境界条件については,地層や帯水層の連続性を考慮した適切な境界条件を設定すること.
・原発敷地内の地下水位観測地点数が不十分であり,とくに建屋に流入する被圧地下水については被圧地下水頭分布が把握できていない状況であるので,早急に深層地下水(被圧地下水)の水頭分布や水頭・水質変動の観測体制を強化すること.
・経産省汚染水処理対策委員会の資料には,汚染地下水の地下での分布実態や,汚染プリュームの移動に関する解析結果がない.モデルをさらに改善したうえで,実測地下水位変動や実測地下水分布(不圧・被圧両方とも)を再現できる非定常計算を行い,その水位を使用して汚染地下水の移流分散計算を非定常で行うこと.
各種汚染水対策(遮水工法,地下水位低下工法,汚染地下水排除工法など)について,
具体的で現実的な計算条件をモデルに設定して予測計算を行い,あらかじめ綿密な効果予測を行うこと.また,予測された地下水位や地下水流動をもとに,汚染水の移流分散だけでなく,軟弱地盤での地盤沈下や汚染水タンクへの影響についても解析すること
 
【あとがき】
これまで東電は汚染水問題について,重大な問題が発覚してから応急的で不十分な対策しかとってこなかった。このままの状況では,今後も汚染水タンクからの漏洩や汚染された地下水が港湾外の海や敷地外の陸地に流出する危険があるので,国や東電はこの緊急提言で指摘した事項を最短の工程で実施することを強く求めるものである。
(以上)