2014年6月16日月曜日

玄海原発 避難時間推計の前提は非現実的

 九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)での重大事故時に、福岡、佐賀、長崎3県が示した周辺住民の避難時間推計には、
平日日中の信号管制が継続する
通行止め経路などの情報は避難開始前に住民に周知されている
避難車両の交通事故やガス欠は想定しない
避難行動は原発から半径30キロ圏内でのみ発生する
・避難指示の1時間前から避難を開始する=そのときまでに避難の準備、自動車への乗車、運転手の確保などが完了している
原発に向かう緊急車両は想定しない=新たな30キロ圏外からの車両の流入はない
など、現実性の乏しいことを前提条件にしていることが西日本新聞の調査で分かりました。
 
 実際の避難所要時間は、先に公表された約17~43時間に、それらの計算の前提条件が達成されるのに要する時間、または条件が変わることによる増加分が加算されることになります。
 
 福島事故では、道路や橋にできた亀裂で避難車両がパンクして動けない事例原発から20キロ圏の大半が停電し信号機が停止したりガソリンスタンドで給油できずに車がガス欠を起した事例などが相次いだということです
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玄海原発事故時の3県推計 「避難時間」甘い前提で試算 [福岡県]
西日本新聞 2014年06月15日
 「避難車両の交通事故やガス欠は想定しない」「避難行動は原発から半径30キロ圏内でのみ発生する」-。九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)での重大事故を想定し、福岡、佐賀、長崎3県が示した周辺住民の避難時間推計で、試算の前提条件に、現実性に乏しい項目が数多く含まれていることが分かった。3県は試算で半径30キロ圏の住民約27万3千人が避難するには約17~43時間が必要と発表したが、防災の専門家からは「最悪の条件によるシナリオに基づかなければ十分な備えはできない」と有用性を疑問視する声も出ている。
 
 西日本新聞は3県から試算業務を請け負った三菱重工業(東京)が佐賀県に提出した報告書を、情報公開請求して入手した。それによると、三菱重工業は自社開発のプログラムを用い、約2600万円をかけて5キロ圏の住民を優先的に避難させるケースなど52パターンを検討した。
 
 避難時間を算出するため設定した前提条件は27項目。東京電力福島第1原発事故が発生した際の避難実態に照らすと、現実的な避難者や緊急車両の動きを反映していない設定がある。
 
 福島県原子力安全対策課によると、地震と津波の複合災害となった福島事故では、道路や橋にできた亀裂で避難車両がパンクして動けない事例が続出。避難指示区域となった原発から20キロ圏の大半が停電し、信号機が停止したり、ガソリンスタンドで給油できずに車がガス欠したりした。50~60キロ圏でも県外に自主避難する人が相次いだという。
 
 しかし、福岡、佐賀、長崎3県の避難時間推計の前提条件は「避難行動は30キロ圏内でのみ発生する」と設定。事故の収束作業のため原発に向かう緊急車両があるのは確実だが、「新たな30キロ圏外からの車両の流入はない」とした。避難道路の状況も、信号機は「平日日中の信号管制が継続する」とみなし、通行止めなどの発生は「避難開始前に住民に周知され、規制誘導は必要ない」と設定した。
 
 こうした前提条件にした理由を三菱重工業広報グループは「佐賀県と協議して決めており回答できない。ただ、米国では避難シミュレーションに不確定要素を取り込まないのが通例」と説明。佐賀県消防防災課は「27万人の動きを予測するにはある程度、設定を単純化しなければならない。これまでに避難時間の指標となる推計はなかったので、一つの目安として考えている」としている。
 
 ■行政の自己満足
 河田恵昭関西大学教授(防災・減災学)の話
 避難時間を推計する際は、最悪の被災シナリオを考慮することが重要だ。今回の前提条件は福島原発事故の教訓を反映しておらず、行政の自己満足にすぎない。住民の命にかかわるリスクを厳しく捉えなければ、推計の意味が問われる。現実の事故はさまざまな事象が重なり、複雑。せめて原発から放射性物質がどう分布し、この地域は何時間以内に退避しなければ危ないといった情報が必要だ。