2014年10月21日火曜日

三陸の漁場では操業しないと高知の水産業者

 三陸沖はきっといい漁場なのでしょう。四国の水産業者にとっても大事な漁場でした。
 しかし福島原発からの汚染水の海中放流は、事故から3年以上経っても止まるどころか、その流出量も汚染濃度も下がっていません。
 その結果特に海底に放射性物質が溜まるので、底引きで魚を捕るのは危険なことになります。従って漁業が再開されても、そこでとられた魚を消費者が安心して食べてくれるかは大いに疑問です。
 
 高知県内一の規模を誇る明神水産の会長でビキニの被曝を経験している明神照男さんは、最近「福島の海が危ない。今後、基本的に三陸の漁場では操業しない」との主張を強めています。 
 高知新聞が明神氏にインタビューしました。
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高知県の明神水産の会長が三陸の漁場では操業しないと主張  
高知新聞 2014年10月20日  
 カツオ船団では高知県内一の規模を誇る明神水産(高知県幡多郡黒潮町佐賀)の会長、明神照男さん(78)が最近、「福島の海が危ない。今後、基本的に三陸の漁場では操業しない」との主張を強めている。脱原発を訴える講演会に足を運び、「残念なけんど、もう福島で漁業はできんと思う」とも語った。決断は、東京電力福島第1原発の事故による海洋汚染だという。明神さんが漁を始めた1950年代、米国は太平洋のマーシャル諸島周辺で核実験を繰り返し、高知県の漁船も多数被ばくした。そんな経験もあって判断した、と。明神さんの率直な思いに耳を傾けた。 
 
■海底にたまる 
 ―この7月、福島県南相馬市に行ったと聞きました。 
 「漁の視察に。福島県ではJR常磐線も止まっちょって。知人が(福島市から南相馬市へ行く車の中で)線量計で測って、『山は除染されてないき、数値が高い』と。自分らは高知で『原発は危ない』と言うけんど、心の中から言いよったかどうか、と思うたね」 
 
 ―福島県沖では、2013年9月下旬から水深150メートルより深い海域で操業が始まりました。その年末には水深135メートル、今年8月には水深120メートルまで漁が可能になっています。 
 「だんだん汚染の数値が低くなりよるからね。地元の漁師は『早く操業ができるよう、今の規制を解除してもらいたい』という思いがある。以前、福島の海は土佐沖より底引き漁の条件は良かった」 
 「けんど、放射性物質は全部海底に沈下して、たまりゆうわけよ。それをね、底引きで魚を捕るとよ、沈下している放射性物質を巻き上げる。それと、底におる魚はこんまいときは(海底の)土の中で育ちゆう。それを思うと、操業開始は難しいやないか、と。再開できても、消費者が安心して食べてくれるかどうか」 
 
■家族の心配 
 ―汚染水対策をどうみていますか。 
 「去年の8月に(福島第1原発で)タンクの漏水があったろ? タンクが傾いたとか、ホースの継ぎ目から漏れたとか。(そんな程度のことに)今まで注意していなかったこと自体が信用できんわけよ。そんな管理する東電さんに原子力を動かす資格はないと思う」 
 
 ―漏水事故では高濃度の放射性物質に汚染された水が約300トン漏れました。今年も事故は続いています。 
 「南相馬市で収穫されたコメから、放射性セシウム1兆ベクレルを計測した、と東電が(今年7月に)発表したこともあった。けんど、その1カ月後には2600億ベクレルの間違いでした、と訂正した。どんな管理しゆうがか、と。公表前に確認するのが普通。命に関わる問題やきね。国や東電の情報は信用できん」 
 
 ―明神水産にとっても三陸沖は大事な漁場ですね? 
 「今も行きゆうよ。6月くらいから、9月、10月まで。(100トン以上の)太い船3隻でカツオを捕りに。自分が心配するがは(乗組員の)家族よね。家族から『お父さん、あんな怖いとこ行く船に乗りなや』っていう話が出たら、三陸での操業は控えないかん」 
 「ほんでね、うちらは去年から(主力を)19トンの船に切り替え、(鹿児島県沖の)薩南海域で操業させゆうがやき。もちろん、放射能の問題だけやない。燃料も高うなった。カツオも釣れんなった。だんだん採算が合わんなりゆう。けんど、やっぱり、さっき言った家族の心配よね。これからは基本的に三陸は捨てる」 
 
 ■ビキニを経験 
 ―主に放射能の危険があるから、と? 
 「ビキニ、広島、長崎と放射能の恐ろしさは分かっちょった。昔、佐賀から(室戸市船籍の)第二幸成丸に6人乗ってビキニの沖で操業しちょったわけよ。そのうち3人は(自分が)かわいがってもらった先輩やった。5歳くらい上で、こんまいときから悪いことしの仲間よ。3人は60、70代で亡くなっちゅう」 
 「3人が本当にビキニ被ばくが原因で死んだかは分からん。けんど、放射線を浴びた人はよ、がんの死亡率が高うなるがやき。それはビキニで分かっちょることやき」 
 「第五福竜丸以外の船で被ばくの影響があったというのは、私も20年くらい前まで知らざった。今は知っちゅう。そこに福島の原発事故。汚染水が海に漏れたことは、東電も認めちゅう。そういう問題があるときに、船員を船に乗せよる立場の人はよ、ここ(三陸)の海に行かすことはできん」 
 
◆福島第1原発の汚染水漏えい問題◆ 
 2013年8月、「H4」と呼ばれるタンク群のうち1基から約300トンの汚染水漏れが判明。ストロンチウムなどの放射性物質が1リットル当たり8千万ベクレルという高濃度で検出された。一部は排水溝を通じ、海に流れ出たとみられる。国際的な事故評価尺度の暫定評価は「レベル3」。