2014年12月15日月曜日

原発、白紙委任ではない

東京新聞 2014年12月15日
 <解説> 東京電力福島第一原発事故後に初めて行われた二〇一二年の衆院選と同様、今回も原発は県内で大きな論争にならないままだった。
 日本原子力発電東海第二原発が立地する東海村が編入された茨城5区の民主候補は、地元の原発関連メーカーの労組に配慮して争点化を回避。他の選挙区でも、再稼働容認にかじを切った安倍政権を支える自民候補は、ほとんど原発を語らなかった。東海村で応援演説しながら、原発に一切触れなかった菅義偉官房長官の姿勢が、経済政策論議に仕向けられた師走選挙のムードを象徴した。
 一方で、五月に原子力規制委員会に申請した東海第二原発の新規制基準への適合審査が本格化しているという。運転開始から三十六年と老朽化が進む原発に、七百八十億円もの巨額の「安全対策費」をつぎ込む必要があるのか。その費用は、どうやって捻出するのか。元東海村長の村上達也さん(71)が「逃げるだけで、帰れない計画など、ばかげている」と喝破する三十キロ圏の避難計画は現実的なのか。この選挙で議論されるべき問題は多かったはずだ。
 首都圏で唯一、原発が立地する茨城で原発が語られず、再稼働に向けた地ならしが着々と進む。行き場のない放射性廃棄物の処分を含め、問題は山積しているというのに、だ。
 原発再稼働ストップを訴え県議選に初めて挑み、東海村内を遊説した荻三枝子さん(61)は「話したいのに最初から耳をふさぎ、心を閉ざしてしまう」と原発の村の風土を嘆いた。荻さんは、それでも言う。「この地で暮らすには原発(の論議)は避けて通れない」
 原発を語らなかった政権が、議員が、これからの原発政策まで白紙委任されたと考えるのは早計だ。 (林容史)