2015年3月3日火曜日

「当初屋内退避」は無理 原発事故時の「2段階避難」

 朝日新聞が原発30キロ圏に居住する住民の意識調査を行ったところ、回答者の6割が、原発の事故時に「避難指示前に避難する」と答えました。
 
 国や県は、混雑の回避のために5キロ圏内の住民がまず避難し、5~30キロ圏は最初屋内退避した後に避難するという「2段階避難」を想定していますが、それは住民心理にマッチしていないものであることが明らかになりました。
 上記の方法は、避難計画を策定する側から見れば極めて好都合な条件設定なのですが、災害心理学専門家は「2段階避難は人の心理を無視しており、実態に即していない」と批判しています。
 
 福島原発の避難の際に、国や電力会社から何一つ役に立つ情報がタイムリーに流された実績がなかったのですから、「指示があるまで屋内に退避」が守られる見込みはまずありません。
 現実に即した住民心理にマッチした方法で見直すべきでしょう。
 
 なお記事の末尾に書かれている、森下参事官「住民が混乱しないよう、見えない放射線量を『見える』ように、迅速にデーターを示す」という対策も、住民が果たして政府をそこまで信頼しているかどうか? いまのところは机上の空論というべきものです。
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「指示前に避難」6割 川内原発、2段階避難で住民調査
朝日新聞 2015年3月2日
 再稼働に向けた作業が進む九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の30キロ圏内で、民間団体が住民の意識調査をした結果、回答者360人の6割近くが原発の事故時に「避難指示前に避難する」と答えた。国や県は混雑回避のために5キロ圏の住民がまず避難し、5~30キロ圏は屋内退避後に避難という「2段階避難」を想定しているが、住民心理からは難しさが浮かぶ。
 
 調査は「安全・安心研究センター」(東京、代表・広瀬弘忠東京女子大名誉教授)が民間調査機関に依頼し、昨年11~12月、川内原発30キロ圏内の9市町のうち、薩摩川内、いちき串木野、阿久根、出水、日置の5市とさつま町で、面談方式で実施した。
 川内原発で事故が起きた時、「直ちに避難する」との回答は27・8%、「情報を確認して避難指示が出る前に避難する」は30%で、計57・8%が避難指示の前に避難する考えを示した。「避難指示が出てから避難する」と答えた人は36・1%だった。5キロ圏内と5~30キロ圏で、傾向に大きな差はなかった
 
 2段階避難を前提に、安全に避難できると思うかどうか尋ねると、「安全に避難できる」「おそらく安全に避難できる」が計34・2%なのに対し、「おそらく安全に避難できない」と「安全に避難できない」が計65・6%にのぼった。
 避難計画を「あまり知らない」「全く知らない」との回答が計67・5%で、「よく知っている」「ほぼ知っている」は計32・5%。県や市町村の原発事故対策については約8割が「あまりできていない」か「全くできていない」と回答した。
 
 原子力規制委員会がまとめた原子力災害対策指針は、「2段階避難」を原則としている。一斉に避難すれば渋滞などで混乱し、5キロ圏の住民の避難時間が大幅に遅れる可能性があるとの理由からだ。自治体が作成した川内原発周辺の避難計画でも、5キロ圏の住民約5千人は事故が発生するとただちに鹿児島市に避難する。5~30キロ圏の約21万人はいったん自宅などに屋内退避。県内73カ所のモニタリングポストで観測された空間放射線量が毎時20マイクロシーベルト以上になった地域があれば、その地域の住民はおおむね1週間以内に避難する。
 
 調査を踏まえ、災害心理学が専門の広瀬代表は「2段階避難は人の心理を無視しており、実態に即していない。福島事故を経て、住民は行政が適切に指示を出すか不安を感じており、自己防衛のため指示がなくても避難を始めるのではないか。現状で住民を安全に避難させる方法はないのが実情だ」と指摘する。
 
■一斉に避難、被曝量増える恐れ
 鹿児島県が昨年公表した川内原発の周辺住民の避難想定は、住民の9割が30キロ圏外に避難し終えるのにかかる時間を5キロ圏で最大15時間45分、30キロ圏全体で最大28時間45分としている。
 避難指示の前に逃げる住民の割合が60%と20%だった場合も試算。60%だと5~30キロ圏は22時間15分で20%より2時間30分短くなるが、5キロ圏は20%よりも10時間長い16時間30分かかる。より原発に近く、避難の緊急性が高い住民の避難に手間取るという内容だ。全住民が一斉に避難を始める想定では試算していない。
 
 内閣府で原発事故時の避難を担当する森下泰参事官は、「一斉に避難して混乱すると被曝(ひばく)量が増えてしまう。仕組みを理解してもらえるように日ごろから訓練などを通じて周知しないといけない」と説明する一方、「住民に指示前に動くなとは言えない。罰するのも無理」と対応の難しさを口にする。
 そのうえで、森下参事官は実情に合わせた改善策を探ると話す。「住民が混乱しないよう、見えない放射線量を『見える』ようには出来る。観測した線量データを、コミュニティーラジオなど地元のメディアを通して迅速に住民に示しながら、避難を指示出来ないか検討したい」という。(小池寛木)