2015年4月20日月曜日

「SPEEDI」は使用せず 規制委が不可解な決定

 原子力規制委、原発事故に放射性物質の拡散を予測するSPEEDI=スピーディの活用を明記していた原子力災害対策指針を今月中に改正し、SPEEDIの記述削除することを決めました。
 
 風速や風向きなど天候次第で放射性物質が拡散する地域が変わり予測が困難であるために、SPEEDIで汚染状況を予測するのは無理であるとしてそれを判断材料から除外し、代わりに実測値に基づいて避難するというものです。
 エアーベント(放射性物質の放出)が終了し、上空に舞い上がった放射性物質が着地しないと正確な汚染状況の実測は出来ません。実測値に基いて避難先を決めるとなると、その間は一体どうしているのでしょうか。原発事故時に長時間自宅待機するのは心理的にも無理とされています。
 もしも同時並行的に避難するというのであれば、たどり着いた先が最も汚染の酷いところだったという、飯館村の悲劇が再現されます。
 
 風向、風速が変化すればその都度放射性物質の拡散状況が変わるのは当たり前のことで、それらの予測をSPEEDIに入力して得られた、例えば「エアーベントの20時間後、30時間後などの各地の汚染状況」の予測値を元に避難先を決めるというのが、そもそもSPEEDIシステムを開発したときの考え方であったはずです。
 その開発にはこれまで120億円以上の巨費が投じられましたが、それを今になって「ないものにしたい」とする規制委の考え方が理解できません。
 地域の汚染状況を線量計で確認するには、半径50キロくらいの範囲で少なくとも5キロ四方ごとに計器を1個ずつ設置する必要があるようですが、いまはまだそうなってはいません。
 それに事故時に、膨大なデータを誰が時々刻々と処理して、いつどういう形で避難先を定めるのか、そのシステム設計は出来ているのでしょうか。
 
 新潟県は3月末、「実測値のみによる防護措置の判断では被曝が前提となるため、判断材料の一つとして予測的手法も活用し、早めに防護措置が実施できる仕組みとするように」と要望する意見書を規制委に提出しました。
 福島県も「安全で確実な避難をするためにはSPEEDIの予測精度を高めることも必要。使えるものは使っていくべきだ」としています。
 なぜそうした考え方をしないで、一方的に排除してしまうのでしょうか。
 
 規制委の更田氏は、「SPEEDIでの予測は放出源情報が得られていることが前提であり、どれだけの放射性物質がいつ出てくるかということをあらかじめ情報としてつかめると考えること自体があまりに楽観的だ」と強く批判(産経新聞4月11日)したということですが、もしも事故時にもエアーベントに入る時期が分からないということであれば、付近の住民が、いつまで自宅待機すればいいのかやいつ避難を開始すればいいのかが分からないということになり、避難をすること自体がそもそも無理である(=原発の再稼動はできない)ということになります。
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「SPEEDI」削除決定へ 自治体反対押し切る 規制委、
原子力災害対策指針改正
産経新聞 2015年4月19日
 原子力規制委員会が、原発事故の際に放射性物質の拡散を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI=スピーディ)の活用を明記していた原子力災害対策指針を今月中に改正し、SPEEDIの記述の削除を決めたことが18日、分かった。規制委には原発の立地自治体からSPEEDIを活用するよう意見書が寄せられていたが、それを押し切る形となり、自治体の反発が予想される。
 
 規制委によると、現行の指針は「SPEEDIのようなシミュレーションを活用した手法で、放射性物質の放出状況の推定を行う」と記載していたが、これらの文章を削除するという。
 
 代わりに、実際に測定された実測値を基準に避難を判断。重大事故が起きた場合、原発から半径5キロ圏は即時避難、5~30キロ圏は屋内退避後に、実測値に基づいて避難するとしている。
 
 東京電力福島第1原発事故では、政府中枢にSPEEDIの存在が知らされず、SPEEDI自体もデータがうまく収集できなかったため、初期避難に混乱を招いた。結果的に、原発周辺の住民の中には放射性物質が飛散した方向へ避難した人も多く、政府は強い批判を浴びた。
 このため、規制委は風向きなど天候次第で放射性物質が拡散する方向が変わり、予測が困難であることを重要視。昨年10月には、「SPEEDIで放射性物質の放出のタイミングやその影響の範囲が正確に予測されるとの前提に立って住民の避難を実施するとの考え方は危険」と判断した方針をまとめていた。
 
 しかし、新潟県は3月末、「実測値のみによる防護措置の判断では被(ひ)曝(ばく)が前提となるため、判断材料の一つとして予測的手法も活用し、早めに防護措置が実施できる仕組みとするように」と要望する意見書を規制委に提出。福島県も「安全で確実な避難をするためにはSPEEDIの予測精度を高めることも必要。使えるものは使っていくべきだ」と反発していた。
 
 規制委関係者は「自治体の反対意見は承知しているが、丁寧に理解を求めていきたい」と話している。 (原子力取材班)