2015年12月27日日曜日

汚染水処理の現状(小出裕章ジャーナル)

 今回の小出裕章ジャーナルは「汚染水処理の現状」がテーマです。
 原発事故の発生から間もなく5年になろうとしていますが、汚染水の処理は遅々としていてほとんど何一つ解決されていません。
 東電は汚染水の発生量を大幅に減らすべく護岸遮水壁を10月下旬に完成させましたが、考え方が間違っていたらしく却って高度に汚染された地下水が増えてしまい、汚染水の日発生量は600トンに倍増しました。
 汚染水は一旦タンクに蓄えて、それをアルプスという装置で放射性物質を除去してから放流するのですが、アルプスはトラブル続きで稼働率が低いのでそれもほとんど進まず、またトリチウムはもともと取れない(取る手段がない)ので放流することができません。結局汚染水はたまる一方で、そのスピードが倍加したということです。
 
 1~3号機の溶融炉心の取り出しについては、いまだにその在り場所も分からないので全く進んでいませんし、取り出しの計画も具体化されていません。
 
 小出氏は、「チェルノブイリ原子力発電所でやったように石棺という形で封じ込めるしかない。数十年を掛けて、原発の上部と地中部を石棺形式で覆うことになるだろう」と述べました。
 
追記 文中の太字箇所は原文の太字強調個所を示します。また原文では小出氏には「さん」がついていましたが、この紹介文では外しました。

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汚染水処理の現状 (小出裕章ジャーナル
〜第155回小出裕章ジャーナル 2015年12月26日
「トリチウムという放射性物質については全くなすすべがないまま、いずれは海へ流すということになってしまうわけです」
 
矢野宏: 事故から5年近くになります。この東京電力福島第一原発が今どうなっているのか。この大阪にいても全く伝わってこないんですよねえ。
小 出: そうですね。
矢 野: はい。今、1号機から4号機までのプラントというのは、今どんな状態にあるという風に考えたらよろしいんでしょうか?
小 出: はい。4号機というのは事故の当日、定期検査で動いていませんので、炉心が溶け落ちるということは、辛うじて避けれらたのです。
   ただし炉心にあった燃料も、全てが使用済み燃料プールというプールの底にあって、そのプールが崩れ落ちる。あるいは水が干上がるようなことになってしまえば、東京すらがもう人が住めないと言って、当時の原子力委員会の委員長だった近藤駿介さんという人が報告書を出したのです。
   でもその4号機の使用済み燃料プールはかなり奇跡的な出来事もあって、辛うじて持ちこたえました。そしてプールの底にあった燃料も、すでに隣にある共用燃料プールというプールに移し終えましたので、4号機の危機は一応は去ったと考えて頂いていいと思います
   残りは1号機、2号機、3号機なのですが、いずれも当日運転中で原子炉が溶け落ちてしまいました。そして5年近く経った今も、溶け落ちた炉心がどこにどのような状態にあるかすらがわからないという状態が続いているのです
   その場所には、人為的に炉心をこれ以上溶かさないということで水をかけ続けていますし、巨大な地震に襲われたがために、本来は外部と繋がっていてはいけないはずの原子炉建屋もおそらく至るところで破損してしまっていて、地下水がどんどんと原子炉建屋の中に流れ込んでくる、それら全てが放射能汚染水になってしまうという状態が、いまだに続いているということなのです
矢 野: なるほど。汚染水に対して、今どのような対策をとってるんでしょうか?
小 出: 当初はとにかくどんどんどんどん増えるに任せていたのですけれども、1年ほど経った段階から汚染水を浄化して、それを循環して炉心の冷却に使うというようなシステムができました。ただし浄化すると言っても、汚染水の中から取り除けた放射性物質はセシウムという物質ただひとつだけだった
矢 野: ひとつだけですか?
小 出: はい、だったのです。それでは、残りの放射性物質が全て汚染水の中に残った状態が続いていたわけですけれども。それを何とかしなければいけないということで、アルプスと私達が呼んでいる装置を東京電力が新たにつくりまして、それでセシウム以外の放射性物質、一番重要なのはストロンチウムという名前の放射性物質なのですが、それを捕まえようとしてきたのです。しかし、アルプスもつくったものの、まともに動かない。
矢 野: 動かない。
小 出: はい、という状態が続いていまして、つくってみては止まってしまう、つくってみては止まってしまうということを繰り返しながら、今日までやってきているのです。まあそんなことを繰り返しながら、何とか少しストロンチウムも捕まえることができるようになったというのが、今の状態です。ただしセシウムを捕まえた、ストロンチウムを捕まえたと言っても、トリチウムという名前の放射性物質もあるのですが、それは仮にアルプスが完璧に動いたとしても、完璧に取れない
矢 野: 取れないわけですね。
小 出: 全く取れない。ですから今のような状態が続く限りは、トリチウムという放射性物質については全くなすすべがないまま、いずれは海へ流すということになってしまうわけです
 
矢 野: なるほど。あと問題の1号機、2号機、3号機のこの使用済み核燃料、まず取り出さなければいけないわけですが、これは結構、至難の技ですよねえ。
小 出: それは、私はできない。
矢 野: できない。
小 出: はい、と思って、ですからチェルノブイリ原子力発電所でやったように、石棺という形で封じ込めるしかないのですが、チェルノブイリ原子力発電所の場合には、地下の構造物はまだ壊れずに維持されていたので、地上だけに石棺を作れば済んだのですけれども、福島第一原子力発電所の場合には、もう地下が先程も聞いて頂いたように、ボロボロに壊れてしまっているわけですから、地下にも石棺をつくる、地上にも石棺をつくるということに結局はなるだろうと思います
   そのために10年では到底できませんでし、何10年か経った時に、ようやくにして石棺というものができるということなんだろうなと、私は思います。
矢 野: なるほど。しかし今もこうした事故を起こしながら、東電の責任者は誰一人その責任を追及されてませんよね。
小 出: これだけ酷いことをやっても、誰も責任を取ろうともしないし、処罰もされないという、こんなことが起こり得るんだろうかと思うようなことが、今起きているわけです。
矢 野: そうですよねえ。だから平気で再稼働に動いていくんでしょうね。
小 出: はい。私が福島第一原子力発電所の事故から学んだ教訓というのは、万が一でも事故が起きてしまえば大変悲惨な被害が出るので、もう原子力発電というのはあきらめて止めるというのが私が得た教訓なのですが、原子力を進めてきた人達が得た教訓というのは、私が得た教訓とは全く違っていて、どんな酷い被害が出たとしても、誰一人責任をとらずに済むし、処罰もされないという教訓を彼らが得たのです
   そうなれば何にも怖いものはないので、これからは原子力発電所を再稼働してまた金儲けをしたいという、そういう選択を彼らがするようになったのです。
矢 野: 何ともほんとにもう悔しいし、今も福島の人達は10万人以上の方が家を追われてるわけですよねえ。
小 出: そうです。
矢 野: そういった人達のことを考えれば、もう私達のとるべき道は、原発を再び動かさないということだと思うんですけれども。
小 出: おっしゃる通りだと、私は思います。
矢 野: 小出さん、どうもありがとうございました。
小 出: はい、ありがとうございました。