2016年3月2日水曜日

02- 東電元トップら強制起訴 被災者は対応の遅さを批判

 原発事故に関して旧東電経営陣の責任を告発したことに対して、検察は繰り返し不起訴処分としました。それに対し11人の市民からなる検察審査会が「起訴すべきだ」と2度にわたって議決し、ようやく強制起訴されることになりました。
 この場合起訴するのは、裁判所から選任された「指定弁護士」で、裁判では検察官役として立証も担います
 
 福島民友新聞が強制起訴に当たり被災者たちの声を聞きました。
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「原発事故の責任...どこにあるのか」 避難者、対応の鈍さなど批判
福島民友 2016年03月01日
 原発事故による避難者は29日の旧東電経営陣の強制起訴を受け、「事故の責任がどこにあるのか」と強い関心を寄せ、公判で事故の真相究明が進むことを期待した。
  
 双葉町から、いわき市に避難する同町行政区長会長の石田翼さん(72)は「東電は要望を受けながら、原発を高台に移転しないなど津波対策を怠っていた。旧経営陣がどこまで責任を取るかは難しい問題だが、やるべきことをやらず、手落ちがあったのは認めるべき」と東電の事故前の津波への対応の鈍さを批判した。富岡町から同市に身を寄せる同町行政区長会長の坂本寿昭さん(71)は「あれだけの事故を起こしたことに対する責任が発生するのは当然」と静かな口調で話した。
 
 会津若松市に避難する大熊町の男性(71)は「原発は絶対に安全、安心だと信じて、自分でも(原発は安全と)言ってきた身としては複雑な気持ちだ。旧経営陣に何の瑕疵(かし)もなかったとはいえない」と指摘した。
 
双葉町村会長「究明しっかりと」
 旧東電経営陣の強制起訴について、双葉地方町村会長の馬場有浪江町長は「原発事故から5年がたとうとしているが、被災者、被災地を思うと、これまで東電の責任が論議されなかったのが不思議だ。今回の強制起訴で事故の原因究明をしっかりと行っていただきたい」とのコメントを出した。
 
 内堀雅雄知事は「訴訟に関することであり、コメントは差し控えたい」とした上で、「本県では地域の再生、避難者の生活再建、風評の払拭(ふっしょく)など、原子力災害の影響で生じた困難な課題に県民一丸となって立ち向かっている。東電は県民の安全、安心を最優先に、廃炉・汚染水対策を着実に進めていただきたい」との談話を出した。
 
 
巨大津波予測が最大の争点 東電元トップら強制起訴
東京新聞 2016年3月1日
 東京電力福島第一原発事故で、検察官役の指定弁護士は二十九日、東電の勝俣恒久元会長(75)ら旧経営陣三人を業務上過失致死傷罪で在宅のまま強制起訴した。公判では、全交流電源喪失が起きるほどの巨大津波の襲来を予測できたかが、最大の争点となる。三被告は公判で「津波の予測は不可能だった」などと無罪を主張するとみられ、指定弁護士は難しい立証を迫られる。 
 
 原発事故の刑事裁判が開かれるのは初めて。強制起訴は二〇〇九年五月の改正検察審査会法施行後、九件目。今回の指定弁護士は強制起訴事件で過去最多の五人で、ネパール人が再審無罪となった東電女性社員殺害事件の主任弁護人を務めた神山啓史(かみやまひろし)弁護士らが担当する。
 他に起訴されたのは、ともに原子力・立地本部長を務めた武藤栄元副社長(65)と、武黒(たけくろ)一郎元副社長(69)。
 
 起訴状では、福島第一原発の敷地の高さ(海抜10メートル)を超える津波が襲来し、浸水で重大な事故が起きる可能性を予測できたのに、原発の運転停止を含めた津波対策をすべき注意義務を怠り、東日本大震災に伴う津波で重大事故を引き起こし、四十四人を死なせ、十三人にけがを負わせたとされる。
 津波の予測をめぐり、指定弁護士の立証のポイントの一つになるのが、東日本大震災の三年前の〇八年三月、福島第一原発に高さ一五・七メートルの津波が押し寄せる、との試算結果の評価だ。
 国の地震調査研究推進本部(推本)が〇二年七月に出した長期地震予測に基づき、東電が算定した。推本は「福島第一原発の沖合を含む日本海溝沿いでマグニチュード(M)8クラスの津波地震が三十年以内に20%の確率で発生する」と予測していた。
 昨年七月の東京第五検察審査会の起訴議決によると、東電は当初、試算結果を原発の耐震性向上のための作業に取り入れる方針だったが、原子力担当の責任者だった武藤元副社長の提案で方針を転換。その後も、巨大津波を想定した防潮堤の整備などの津波対策は取らなかった。
 試算結果について、勝俣元会長は一二年五月の国会事故調の参考人聴取で「私自身まで上がってきた話ではなかった」と関与を否定。東電も株主代表訴訟で東京地裁に提出した書面などで、「津波は従前の研究で想定された波源(津波の発生源)とは比較にならないほどの広範囲で発生し、予測することができない状況にあった」と主張している。
 
 他の争点として、津波対策を取っていれば事故を防げたかや、原発事業者の経営トップとしてより高度な注意義務を負うかについても、双方の主張がぶつかると予想される。
 
◆心からおわび 東京電力広報室の話
 事故により、福島県民をはじめ、広く社会の皆さまにご迷惑とご心配をお掛けしていることを、あらためて心からおわび申し上げる。当社元役員が強制起訴されたとの報道は承知しているが、刑事訴訟に関することでありコメントは差し控える。損害賠償や除染に全力を尽くし、原発の安全性強化対策に、不退転の決意で取り組む。