2016年6月20日月曜日

20- 参院選の争点から消えた「原発問題」

たった5年で大事故は“なかったこと”にあの恐怖を忘れたのか
古賀茂明  「日本再生に挑む」
『週刊現代』2016年6月25日号
風化のスパイラルに陥っている
7月10日に行われる参議院選挙。民意を問う貴重な機会だが、そこで争点から外されようとしている重要なテーマがある。
今回の選挙で国民が重視する政策分野は何か。6月6日の朝日新聞デジタルでは、参院選で重視する政策を選択肢から2つ選ぶ世論調査の結果を報じた。
 
答えには、「医療・年金などの社会保障」53%を筆頭に、「景気・雇用対策」45%、「子育て支援」33%、「消費税の引き上げ延期」23%と経済・生活関連分野が並んだ。市民連合などが最も重視し、野党共闘の結節点となっている「安全保障関連法」は17%、次いで「憲法」10%、「外交」9%といずれも関心度は低い。
しかし、私が驚いたのは、この調査の「結果」ではなく、「質問」のほうだ。並べられた7つの選択肢の中に、「原発政策」がない。3・11の福島の事故からわずか5年で、朝日新聞は「原発は参院選の争点ではない」と考えたのだ。
 
このところ、マスコミは重要な原発関連のニュースをスルーしたり、形ばかりの小さな扱いで終わらせることが多い。特にテレビ局は顕著だ。スポンサーを意識しているのだろうが、それが続くと国民の関心も徐々に弱まる。国民の関心が低くなれば、新聞も扱いを小さくする。そして、国民の関心はさらに下がる。
 
このスパイラルが続き、ついに、「原発」は世論調査の選択肢から消えた。選挙の争点にすらならず、「原発推進・容認」が当たり前の世の中になって行くのだろうか。
安倍政権の戦術も巧妙だ。原発に関する重要な決定は、静かに目立たない形で行う。例えば、廃炉必至と見られた高速増殖炉「もんじゅ」の存続を事実上決めた文科省の検討会の報告書発表は、当初の予定の5月20日から突然、27日に延期された。オバマ大統領の広島訪問にぶつけるためだろう。これで、「もんじゅ」はニュースから消えた。
 
次に解決策がないといわれる福島第一原発の汚染水問題。トリチウム汚染水を除染しないまま薄めて海に流してしまうという驚きの方針を提案した経産省の作業部会報告も、同じ27日で、ほとんど報道されなかった。
また、本来は廃炉にすべき古い原発、高浜1・2号機の40年超の運転延長の審査も同時期に終わった。さらには、事故が起きたときの電力会社の賠償責任を国が肩代わりするという究極の原発支援策も、制度設計の議論が開始されている。どれも、国民はほとんど知らないままだ。
 
頼みの野党第一党の民進党は、参院選が近づくにつれて連合支配が強まり、原発を争点から外そうとしている。
福島原発事故を受けて原発の延命を止めたドイツの環境相は、「原子力は最も割高。国の補助金なしには建設不可能で財務上最悪」と切って捨て、「今や再生エネは電力消費の3分の1を賄い、原子力の2倍だ」と脱原発・自然エネルギー推進を柱とする成長戦略に自信を示す。
 
一方、事故から5年が経った日本の成果はほぼゼロ。
それどころか、原発について考えることさえ放棄しようとしている。こんな状況は、誰がどう見てもおかしい。
もう一度、「原発」を選挙の争点にするべきではないか。