2016年8月3日水曜日

原発事故時に住民は安全に避難できない

 1日と2日の「女性自身メルマガ」に、高浜原発、伊方原発、川内原発が過酷事故を起こした場合に住民がスムーズに避難できるの問題に関する記事が載りました
 
 “原発銀座”と呼ばれる福井県には高浜原発のほかに大飯、美浜、敦賀などの原発がありますが、それらを含む若狭湾一帯は活断層銀座でもあり、大地震でブロック状になっている地盤が陥没したり隆起したりすればほぼ同時に急激な津波に襲われて大惨事を起こします。
 
 伊方原発は、佐多岬半島という日本一細長い半島の付け根にあるので、半島の住民(4,906人)は原発事故が起きたら原発の前を通って東に避難するか、あるいはフェリーで大分県に避難すしかありません。しかし狭い半島の片側一車線の道路を通って安全に避難することは困難で、放射能が漏れているときに本当に半島にバスを回せるのか、あるいは津波の恐れがあるときにフェリーを回せるのかも大問題です。
 
 アメリカでは、現実的な避難経路が確立されていない原発は即廃炉だということです。住民を被曝させないというのが原発規制基準の目的ですから、それが極めて当然のことなのに日本ではそうなっていません。
 逆に、現実的な避難計画が立てられないことを見越して、日本の新規制基準には住民の避難に関する項目(深層防護 第5層)がすっぽりと抜けています。
 日本で原発を運転しようという発想がそもそも無理だということの証明です。
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高浜原発のトラブル対策に380億円、それでも避難パニックが
 女性自身メルマガ 2016年08月01日
 取材・文/和田秀子
 再稼働にむけた原発のトラブルが相次いでいる。7月末に再稼働が予定されていた伊方原発3号機で17日、原子炉の冷却水を循環させるポンプから水が漏れ出るトラブルがあり、再稼働が8月以降に延期。高浜原発4号機でも、今年2月に再稼働した直後、変圧器周辺でトラブルが起き、原子炉が自動停止。
 「そもそも、5年以上停止させている原発を動かすこと自体が大きなリスク。どんな機械でも、しばらく使っていないものを動かせば不具合が生じる。原発みたいに複雑なシステムなら、なおさらです」
 と話すのは、東芝で原子力プラントの設計をしていた後藤政志さん。リスクのある原発の安全対策はどうなっているのか――。現場を取材した。
 
 高浜原発正門前では、土ぼこりをあげながら、工事車両が行き交っていた。原発事故時に車両がスムーズに通行できるようにと、山をくりぬき“原子力災害制圧道路”を作っているのだ。総工費は、なんと約380億円。財源はすべて国の交付金だ。そんな大金をかけて整備しないといけないほど、再稼働は危険なのか。
 「ここ若狭湾は、地震が起きると同時に津波が襲う可能性があるんです」
 そう語るのは、京都大学名誉教授で地質学者の志岐常正さん。地震と津波のメカニズムを、次のように説明する。
 「高浜原発が立地している若狭湾周辺には、大小さまざまな断層が網の目のように走っています。地震が起きると断層に囲まれてブロック状になっている地盤が陥没したり隆起したりして、地震とほぼ同時に急激な津波を起こす可能性があるんです。リアス式海岸なので、海水の動きは複雑で予測は困難。局所的に水面が異常に高くなることも考えられます」
 地震と同時に津波がおそえば、原発の命綱と言われる冷却用の電源ケーブルもやられてしまう可能性が。“原発銀座”と呼ばれる福井県には大飯、美浜、敦賀などの原発もあり、複合災害になれば大惨事は免れない。高浜原発には、さらに心配な要素がある。
 
 「40年の寿命を越えてなお、再稼働させようとしている老朽原発の1~2号機です」
 と話すのは、記者を高浜原発に案内してくれた敦賀市在住の山本雅彦さん。原発の設計にも携わっていた技術者だ。
 圧力容器(原子炉)に中性子線が当たり続けると、金属がもろくなって低い温度への耐久性が弱くなります。高浜原発1、2号機の場合、注水して原子炉を冷やさなければならないような過酷事故が起きても水を入れられない。圧力容器が冷却水の温度に耐えられず割れる可能性があるんです」
 こうした危険な状況で老朽原発が再稼働されることを、立地自治体の住民はどう思っているのだろうか。
 「お父さんは原発で働いているから、仕事がなくなったら困る。でも自信満々に“安全です”と言えるようになるまで動かさないでほしい!」
 と正直に思いを語ってくれたくれたのは、高浜中学の男子生徒たち。これに対し、地元のオトナたちは口が重く、「そういう質問には答えられません」と足早に立ち去る人がほとんどだった。
 
 しかし原発事故が起きて被害をこうむるのは、立地自治体だけではない。高浜原発の場合、避難計画の作成が義務づけられている原発から30km圏内の人口は、約18万人。うち福井県が約5万4千人なのに対し、京都府はなんと約12万5千人と、圧倒的に多いのだ。肝心の避難計画の中身はどうなのか。
 「原発から5km圏内の住民は、原発で事故が起きたらただちに避難できることになっています。でも10km~30km圏内の住民は、空間線量が毎時500マイクロシーベルトにならないと、ただちに避難できない。甲状腺を被ばくさせないためのヨウ素剤も、事前に配布されていません」
 そう訴えるのは、市の一部が30km圏内に含まれる京都府南丹市の児玉正人さん。彼の言う「毎時500マイクロシーベルト」とは、ICRP(国際放射線防護委員会)が定めた一般公衆の被ばく限度量である「年間1ミリシーベルト」にたった2時間で達するほど高い値だ。
 「つまり、被ばくすることが前提に作られた避難計画なんです! 福島原発事故のときも、第一原発から約40km離れた飯館村に高濃度の放射性物質が飛んできて全村避難になりましたよね。高浜原発で事故が起きたら、京都の歴史的建造物も琵琶湖の水源も汚染されてしまいます。なのに再稼働に際して、近隣自治体には何も説明がないんです」
 
 さらに児玉さんは、内閣府や自治体が定めた避難計画の無謀さを、こう指摘する。
 「南丹市の避難計画では、30km圏内の住民は大型バスで避難することになってます。でも福井からの避難者約3万6千人(内閣府試算)も南丹市の避難者と同じルートを通って自家用車で避難するので、道は大渋滞になるはず」
 しかも、福井からの避難者が放射能測定を受ける場所と、南丹市の地域住民の避難場所が同じ公園に指定されているため、汚染が拡大し、混乱を招くおそれがある。問題の測定と避難場所のひとつ「長谷運動広場」(京都府南丹市)は、山間にある緑に囲まれた美しい公園だ。入り口の道は狭く、一車線しかない。乗用車が2台通るのもやっとで、大型バスが行き交うのは不可能だ。公園のすぐ近くには、重さ9トンまでの車両しか通行できない、通称「9トン橋」がかかっていた。
 「内閣府の官僚は、『大型バスが来たら、9トン橋は通れないので引き返してもらう』って言うんですが、一車線しかない道で避難する乗用車がどんどんやってくるのに、引き返せるのか!」
 国の無責任ぶりに、児玉さんは怒りを露わにしていた。
 
 
 「事故起きたら死ぬ」伊方&川内原発のお粗末すぎる避難計画
 女性自身メルマガ 2016年08月02日
 取材・文/和田秀子
 「ここでの暮らしは、つねに不安がつきまとう。原発で事故が起きたら、逃げ場がありませんから」
 と話すのは、佐多岬半島(愛媛県伊方町)の先端近くに住む平岡綾子さん(仮名・43)。伊方原発は、すぐそばを国内最大級の中央構造線断層帯(活断層)が通っている。4月に起きた熊本地震に誘発されて、伊方付近の断層が動く可能性も指摘されている。また南にある南海トラフで地震が起きると、最大で43万人以上の死者数になる可能性も……(内閣府試算)。
 
 伊方原発は、佐多岬半島という日本一細長い半島の付け根にあるんです。だから、伊方原発から西に住む半島の住民(4,906人)は、原発事故が起きたら原発の前を通って東に避難するしかありません。でも放射能漏れしている原発の前を通って逃げるなんて不可能です」
 と平岡さん。しかし避難経路になっているのは片側一車線の道が多く、なかにはがけ崩れが修復されず、そのままになっているところもあった。政府は、放射能漏れがひどく原発の前を通って逃げられない場合は、佐多岬半島の港からフェリーで大分県に避難する計画も立てている。
 「訓練のときは、迎えのバスが来て港まで連れて行ってくれました。でも地震でガケくずれが起きたら、すぐに道がふさがれてしまう。第一、放射能漏れしているのにバスやフェリーを出してくれる民間会社なんてあるんでしょうか」(平岡さん)
 避難訓練にも参加した国道九四フェリーの広報担当者にも尋ねた。
 「放射能漏れがなければフェリーは出せますけどね。当社も、船員の人命を守らねばなりませんから、(放射能漏れが)あった場合は対応できるかむずかしいですね」
 昨年の避難訓練では、ヘリを導入することも予定されていたが、天候不良で中止になるというお粗末さ。事故がおきれば、逃げ道をふさがれた住民の命は切り捨てられる。
 
 現在、日本で唯一稼働している鹿児島県の川内原発。そこから50kmには桜島がある。桜島は姶良カルデラという巨大火山帯の一部で、これが巨大噴火を起こせば川内原発も破壊的なダメージを受ける可能性がある。
 九電は「敷地周辺のカルデラが、巨大噴火する可能性は十分に小さい。原発の運用期間中は、火山活動のモニタリングを続ける」と説明する。多くの火山学者は「火山噴火の予知は不可能」と批判している。しかし、原子力規制庁も九電の言い分を認めて再稼働に至っている。避難計画も穴だらけだ。介護が必要な高齢者や障害者の避難計画はないに等しい。
 「県や市は、避難計画を各施設に丸投げです。原発事故が起きたら、施設に通う高齢者は自宅に帰せと言うが、ひとり暮らしで認知症がある高齢者も少なくないのに、帰せるわけがありません」
 そう話すのは、川内原発から約17kmにある、いちき串木野市で「デイサービス蓮華」を営む江藤卓郎さん。原発から5~30km圏内の要介護者は“屋内退避”が原則だが、避難が必要になった場合に施設の利用者を受け入れてくれる先は決まっていない。
 市の担当者は「風向きによって避難する方角が変わるので、事前に避難先を決めておいてもあまり意味がない。避難の必要性が生じたら、鹿児島県が予め整備した原子力防災・避難施設等調整システムによって都度、避難先を選定する」と話す。
 「風向きを読むことは、もちろん大事です。でも、事故が起きてから高齢者をいきなり知らない施設に避難させることは不可能です」
 と江藤さん。事前に利用者の家族にアンケート調査を実施し、避難の意向を確認。独自に原発から30km離れた知人の介護施設に受け入れてもらえるよう手はずを整えた。施設に通う80代の女性は、ポツリとこうもらした。
 「原発事故が起きたら、逃げられやせん。もう、ここで死ぬだけよ」
 前出の後藤さんもこう語る。
 アメリカでは、現実的な避難経路が確立されていない原発は即廃炉です。でも日本の場合、避難計画は原子力規制委員会が原発再稼働を進めるために新たにつくった新規制基準の対象外なんです。だったらなおさら、安全がきっちり確認できない原発は再稼働を認めない、という厳しい姿勢で臨まなければ」
 
 今回の取材で出会った、福島県南相馬市から京都府綾部市に避難中の女性も、次のように訴える。
 「福島では、事故のときに逃げ遅れたり、放射能の方向に避難してしまったりして被ばくした人がたくさんいます。その教訓がまるで活かされていない。事故が起きたら、国の言うことを信じずに、逃げられる人はすぐに逃げてほしい。国の指示を待っていたら被ばくするだけです」