2016年9月16日金曜日

16- “反東電知事”を潰した原発包囲網 泉田氏は何故出馬を断念したのか

 泉田氏は、新潟日報による激しい追い落としキャンペーンがあっても、これまでの実績県民の支持率は高く、情勢調査によっても十分に次期知事選にてる見込みがりました。
 それにもかかわらずどうして知事選出馬を断念したのかについて、「新潟日報による攻撃」以外の真の理由があるのではないかという根強い見方があります。
 
 それに便乗するかのように地上げ屋を自称するあるブロガーは、「泉田氏が都内の料理屋で某社長から「レンガ」(札束の意味)を2~3個渡された。その場面のビデオがあるらしい。その話を原発マフィアが嗅ぎつけたんだから・・もうアウト。 誰がこのことを原発マフィアに売ったかっていうと、後援会幹部のHだ・・・」というようなことをブログに書き連ねました
 
 それは勿論何の根拠も示されていない、まさに言いたい放題の代物なのですが、世の中にはそれを真に受けている人もいるようです。
 福島原発のプルサーマル化に断固反対して、ついに権力に汚職事件をデッチ挙げられて検挙された佐藤栄佐久元福島県知事の悲劇を良く知っている泉田氏が、いくら何でもそんなバカなことをする筈がありません。
 
 それでは泉田氏は何故出馬を撤回したのでしょうか。ブログ「dot.」が、そのことが納得できる記事を載せました。
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“反東電知事”を潰した原発包囲網 
 暗躍する「原子力モンスター・システム」
Dot. 2016年9月15日
週刊朝日 2016年9月16日号 
 原発立地県の首長としてただ一人、原発再稼働へ“抵抗”を続けていた泉田裕彦新潟県知事(53)の挫折は、脱原発派、推進派ともに衝撃を与えた。あまりに不可解なニュースの裏で何が起きていたのか。泉田氏を包囲し、追い込んだ“原子力モンスター・システム”の正体とは──。
 
 泉田新潟県知事は、これまで事あるごとに東京電力が目指す柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)の再稼働への動きに立ちふさがってきた。いわば東電の「天敵」だった。
 東電が再稼働を切望する柏崎刈羽原発は、現在6、7号機が原子力規制庁の新規制基準への適合審査を申請中。今秋にも規制庁が「ゴーサイン」を出すとみられている。しかし、泉田氏は「再稼働の前に福島第一原発事故の検証・総括が必要」という考え方で、県として独自に安全性を判断するまで再稼働を認めない姿勢を貫いていた。原発再稼働を国策とする安倍政権、東電にとって最大の障壁とみられていた。そんなキーマンが、再稼働を巡る攻防を目前にした時期に退場する。いったい何が起きているのか。新潟県政に詳しい関係者はこう語る。
 
「原発再稼働については、実は自民党内が慎重派と積極派に分かれている。前者の代表は菅義偉官房長官で、泉田氏が主張していた防災対策の整備などの手順をしっかり踏むべきという立場。後者の代表は麻生太郎財務相で、反対論はねじ伏せてでも早く再稼働すべきだという立場。財務省は電力関連の税収さえ入ればいい。国に意見する泉田氏は以前から麻生氏周辺に目をつけられており、今年に入っては猛烈な『泉田降ろし』が展開されていた
 
 経産官僚を経て、2004年に当時の全国最年少の42歳で知事となった泉田氏は、10月に3期12年の任期を終える。2月には4選出馬を早々に表明したのだが、この頃から周辺では包囲網が粛々と敷かれていた。
 5月には県市長会と県町村会が、泉田県政の問題点26項目を指摘した文書を知事に提出。この時、市長会の会長を務めていた森民夫・長岡市長(当時)はその後、泉田氏の対抗馬として県知事選への出馬を表明する人物だ。前出の関係者がこう語る。
「当初、泉田氏の対抗馬にはNHK前キャスターで県立新潟高校出身の大越健介氏などの複数の有力者の名が挙がったが、皆、断られたそうだ。森氏は04年にも知事選への出馬を模索したが、泉田氏が自公の推薦を得たため断念したという因縁がある人物で、以降もたびたび機をうかがっていた。県内の自民党原発再稼働推進派を口説き、出馬にこぎつけたと聞いています」
 
 7月には県内で約6割のシェアを誇り、かねて“反泉田”的論調とされる新潟日報がフェリーの購入を巡る県出資企業のトラブルについて、泉田氏の責任を問う報道を本格化させる。連日のように大きく紙面を展開する同紙に呼応するように、県議会最大勢力である自民党は調査委員会を設置。8月5日には議会閉会中にもかかわらず委員会を開き、泉田氏や担当の県庁職員を呼び、計12時間以上、“疑惑”を追及した。
 泉田氏に、さらに追い打ちが浴びせられる。泉田県政の後見人と言われた自民党重鎮の県議、星野伊佐夫県連会長が失脚。7月の参院選で新潟の自民党候補が敗れた責任論が党内で噴出し、星野氏は8月6日に辞意を表明したのだ(後任は長島忠美衆院議員)。
 
「星野氏は田中角栄元首相直系の古参議員で、『越山会の三羽ガラス』と呼ばれた一人。他のベテランが政界から去り、星野氏に権力が集中する中で、泉田氏を守ってきた。県市長会、町村会の文書の件も星野氏の件も要は地元の権力闘争なのだが、新潟日報はいずれも知事サイドに厳しい視点で報じた。同社の小田敏三社長は以前から泉田氏には批判的で、今回の『泉田降ろし』キャンペーンは特に凄まじかった」(自民党新潟県連関係者)
 
 ちなみに、泉田氏は撤退表明後に後援会ホームページ上に公開した文書の中で、新潟日報について、
〈東京電力の広告は、今年5回掲載されていますが、国の原子力防災会議でも問題が認識されている原子力防災については、(中略)重要な論点の報道はありません〉
 と、同紙と東電との“蜜月”を指摘している。
 
 8月10日には、前出の森民夫氏が満を持して出馬を表明。泉田氏との一騎打ちの構図が生まれると、県医師会など4団体が早々に森氏推薦を表明。自民党も割れて分裂選挙になるとの見方が出ていた。
 真綿で首を絞められるような包囲網に屈し、泉田氏が撤退したようにも見えるが、事実は違うという。3選の実績で県民からの支持率は高く、情勢調査でも4選に挑んでも十分に勝算はあったというのだ。泉田氏も「必ず勝てる。情勢が厳しいから撤退するという判断はしていない」と記者団に語っており、どうも腑に落ちない。本当の原因は何か
「原発再稼働を望む勢力からのプレッシャーが日増しに強まる中で、仮に知事選で勝っても、その後も手を替え品を替え『泉田降ろし』が続くことは想像に難くない。それだけでなく、最悪、家族に危険が及ぶ事態まで想像されるような状況だったようです。知事は巨大な利権で政官財がつながる『原子力モンスター・システム』に完全包囲されてしまった。相当悩んだ末の決断だったようです」(前出の県政に詳しい関係者)
 
 環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長はこう語る。
「現在の東電は実質、経産省の管理下に置かれています。国は何としても柏崎刈羽を再稼働させて、少しでも東電に注ぎ込む資金を減らしたい。事故を起こしたのと同じ沸騰水型原子炉の再稼働はまだなく、ここで先例を作る意図もあるでしょう。知事交代となれば、公共事業の大盤振る舞いと引き換えに、再稼働を認めさせると思われます」
 
 泉田氏は後継を指名しない方針。だが、対抗馬の森氏がこれで安泰かというとそうではない。
 7月の参院選新潟選挙区では、野党統一候補の森ゆうこ氏が自民党現職の中原八一氏を、約2千票差という接戦の末に破った。再稼働反対派にも勝算はある。
 新潟日報は取材に対し、こう回答を寄せた。
「本紙の見解は8月31日付の紙面で発表しています。東電の広告などについてはお答えを控えさせていただきます」
 孤高の知事を退場に追い込んだ勢力は、日本中をのみ込んでしまうのか。(本誌取材班)
週刊朝日 2016年9月16日号