2016年12月4日日曜日

廃炉・賠償費用を新電力に負担させるのは間違い 国民の負担額は一人20万円

 福島原発事故の賠償・廃炉費用従来見通しの11兆円から突然20兆円以上に跳ね上がり、それらを送配電網の使用料「託送料金」に上乗せしようと経産省が計画していることに対して各所から批判が高まっています
 立命館大学の大島堅一教授は「(託送料金への上乗せは)債務超過に陥った東電の救済策で、電力自由化の趣旨に反する」、「託送料金への上乗せでは費用の内訳が見えなくなるので税とするのがよい」 と述べまし
 自然エネルギーを主体とする新電力へのアンケートでは9割が託送料金への上乗せは「適切でない」と答えました。
 
 大前研一氏は、事故処理費用20兆円は、国民1人あたり20万円、4人家族なら80万円に相当する負担増であるとし、福島第1原発は歴史に残るような高額な廃炉費用になってしまったと述べました。
 また建設コストも上がる一方で海外向けの原発輸出が頓挫したので、安倍政権には痛いはずだと述べました。
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原発事故廃炉費用の託送料への転嫁案に批判や不満
オルタナニュース 2016年12月2日
東電原発事故の賠償・廃炉費用を送配電網の使用料「託送料金」に上乗せするという経産省の方針に対して各所から批判が高まっている。原発事故に関係がない新電力会社(PPS)や消費者にも負担を強いるという矛盾に加え、賠償・廃炉費用も従来見通しの10兆円から突然20兆円に跳ね上がり、試算の妥当性にも疑問符が付いた。東電を過度に救済する仕組みに対して、PPSからも不満の声が上がる。(オルタナ編集委員=斉藤円華)
 
■自然エネPPSは「相対的に不利」
11月29日、廃炉費用の託送料金上乗せに反対する消費者団体や新電力、国会議員らが衆院議員会館で集会を開催。立命館大学の大島堅一教授は「(託送料金への上乗せは)債務超過に陥った東電の救済策で、電力自由化の趣旨に反する」と述べた。
その上で大島氏は東電原発事故の賠償・廃炉費用について、託送料金への上乗せではなく税とすることを提案。「託送料金への上乗せでは費用の内訳が見えなくなるが、税とすることで国民に明らかとなる」と説いた。
 
自然エネルギー供給を主体とするPPSは、託送料金への上乗せに危機感を募らせる。環境NGOなどでつくる「パワーシフト・キャンペーン」は24日、新電力へのアンケート結果を公表。回答した29社中25社が自然エネルギー供給を重視し、内9割が託送料金への上乗せは「適切でない」と答えた。
その理由を尋ねると、「原発電源の利用を望まない需要家も費用負担することになる」「原発の恩恵は皆無なのに負担を強いられる」などの意見が挙がった。
 
また、消費者組織の日本生協連も「原子力発電を行う事業者が廃炉費用を売電価格に反映させるべき。(託送料金への上乗せは)原発以外の電気を利用したいと要望する消費者の理解を得られるとは思えない」と不満を訴える。
パワーシフト・キャンペーンの吉田明子氏は「(上乗せは)原子力という特定の電源の保護であり、自然エネルギー重視の新電力は相対的に不利になる」と話している。
 
 
【大前研一のニュース時評】
廃炉費用拡大で原発輸出に“逆風”安倍政権には痛手
夕刊フジ 2016年12月3日
 経済産業省は、東京電力福島第1原子力発電所で起きた事故の賠償や廃炉費用の合計額を20兆円超になると試算した。賠償対象件数の拡大や除染費用の増加などで、これまで想定してきた11兆円の約2倍になった。
 経産省は事故処理費用の一部を電気料金に上乗せし、新電力にも負担を求める方針だ。国民1人あたり20万円、4人家族なら80万円に相当する負担増だ。何年間で取り返すのか明らかになっていないが、巨大な出費となることは間違いない。
 
 「3・11」の直後、私は「補償だけで10兆円はいくのではないか」と主張したが、国も東電もそのあたりを甘く考えていた。新たな試算では、賠償は従来想定の5兆4000億円から8兆円に増える。
 また、除染も帰還困難区域など対象が拡大しただけでなく、考えられないレベルのことを要求されて、めったやたらとカネがかかり、当初の2兆5000億円から約5兆円に増大した。最初からポリシーをきちんと決めていれば、こんなにかからずに済んだはず。10ミリシーベルトに設定したのは明らかに当時の民主党(現民進党)政権の判断ミスだ。
 さらに、原子炉建屋下に流れ込む地下水を抑制したり、放射能を含んだ汚染水をタンクに貯めなくてはいけない。2兆円を想定した廃炉や汚染水対策費用も、数兆円規模で増えている。
 ということで、福島第1原発は歴史に残るような高額な廃炉費用になってしまった。原発1基あたりの建設費は約5000億円。その一方で、廃炉には福島第1原発1-4号機の4基で20兆円以上もかかる。とてつもない費用だ。
 
 こんな数字を聞くと、普通の国ではやはり建設を躊躇するのではないか。ベトナム政府は先月22日、同国南部の原子力発電所建設計画の中止を決めたが、その気持ちもわからなくはない。同国の原発は経済成長に必要な電力インフラの大型事業で、日本とロシアが受注して2028年に稼働予定だったが、資金不足や計画を主導したグエン・タン・ズン前首相の引退などに加え、福島第1原発事故の廃炉の問題も影響したようだ。
 
 もともとベトナムは、近隣国との自由貿易協定(FTA)による関税収入の減少や公的債務の拡大で財政状況が急速に悪化していた。また、原発の建設費用も、当初見込んでいた約1兆円から3兆円以上に膨らむと試算した。
 この3兆円という建設費用、私は少し大きすぎて疑問があるのだが、いずれにしても安倍晋三首相とベトナムのトップが正式にサインまでしたプロジェクトが白紙撤回されたわけだ。インフラ輸出を「成長戦略の柱」に掲げて官民一体で推進してきた安倍政権にとって、この原発輸出の頓挫は痛い。
 
 日本で原発が造れなくなったので海外に活路を見いだしたわけだが、バルト三国の一角、リトアニアで行われた日本製の原発建設に信を問う国民投票では60%以上が反対するなど、原発輸出は完全に逆風となっている。
 オシャカになった原子炉の廃炉費用の拡大は、いろいろな面で非常に高くついているわけだ。