2017年4月18日火曜日

原発避難いじめは 大人の無理解の反映

 先日、原発事故のために避難した子どもに対するいじめの状況を文科省が公表したことに関して、東京新聞と毎日新聞が社説を出しました。
 東京新聞は「避難者の子どもたちに放射能や賠償金のイメージがついて回るのは、大人が持っている差別や偏見の影響があるだろう」とし、毎日新聞も「いじめは子供社会の中だけに原因があるのではない。放射線への理解不足や賠償金に対するねたみといった、周囲の大人の避難者への誤解や思いやりのなさが原因と言える」として、いずれも大人の偏見が子供たちの心に投影しているというとらえ方をしています。
 心すべきことです。
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【社説】 原発避難いじめ 「心の傷」は見逃さない
東京新聞 2017年4月17日
 原発事故のために避難した子どもに対するいじめの状況を文部科学省が公表した。把握されたケースは氷山の一角かもしれない。避難を余儀なくされた子どもらを見守り、異変を見逃さずにいたい。
 調査は、福島原発事故後に福島県の内外に避難した小中高生ら約一万二千人を対象に行われた。二〇一六年度は百二十九件、一五年度以前は七十件の計百九十九件。このうち震災や原発事故に関連したケースは十三件だった。
 
 調査のきっかけは昨年秋、横浜に避難した男子生徒が小学校時代に、同級生から暴力をふるわれたり、遊興費などのために百五十万円を要求されていたことが発覚したことである。
 同省は十二月、同様のいじめがないか調べるように学校に求め、子どもたちに面談などをして確認を行った。十三件の内容は「福島へ帰れ」「放射能がうつる」などと心ない言葉を投げ付けられ傷ついている場合が多い。被害に遭ってもすぐに親や教師には言えなかったというケースもある。慣れない避難先で不安な生活を送っている子どもが、さらにいじめに遭うのはあまりにも理不尽である。
 原発避難者たちが各地で提訴している損害賠償裁判でもいじめの問題が出ている。避難者に限らず、いじめの問題への対応は難しいが、原発避難という特別な事情を踏まえ、子どもの様子を見守ることで異変のサインもキャッチできる。問題の芽を早めに摘めるのではないか。
 
 避難者の子どもたちに放射能や賠償金のイメージがついて回るのは、大人が持っている差別や偏見の影響があるだろう。今村雅弘復興相が区域外の自主避難者の避難について「自己責任」と発言した。国策が招いた原発事故なのに、被害者に責任を転嫁するような認識を閣僚が率先して示すようでは、偏見や差別を助長させる。
 
 松野博一文科相は避難者いじめの防止策として、子どもらが放射線に対する科学的な知識を身に付けることも呼び掛けた。だが、子どもたちに求める放射能の知識とは何を指すのか。原発事故の影響を矮小(わいしょう)化しようとする思惑があるのなら見逃せない。
 横浜の生徒は「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」と手記に書いた。自分と同じように苦しむ子どもたちのために生徒が出した勇気に、大人たちは正面からこたえなくてはならない
 
 
社説 原発避難児童らへのいじめ 大人の無理解の反映だ
毎日新聞 2017年4月17日
 大人社会の避難者への無理解が、いじめの背景にないだろうか。 
 文部科学省は、東京電力福島第1原発事故で福島県から県内外に避難した児童・生徒に対するいじめの件数が、3月までに199件あったと発表した。このうち、東日本大震災や原発事故に起因するいじめは13件とした。 
 昨年11月、福島県から横浜市に避難した当時中学1年の男子生徒が「ばい菌」と呼ばれ、多額の金銭を要求されたいじめが発覚したことをきっかけにした初の全国調査だ。福島県から県内外に避難している小中高校生ら約1万2000人を対象に聞き取りで実施した。 
 いじめ問題は潜在化しやすい。特に避難家族にも影響を及ぼしかねない「原発いじめ」など、いじめられている子が学校での調査に、正直に答えぬことも容易に想像できる。優しい子ほどそうだろう。 
 
 今回も、転入した小学校時代のいじめを、保護者にも教員にも伝えていなかった例があった。調査の数字はほんの一部のケースだろう。文科省も「すべての状況が網羅されているとは限らない」とし、引き続き通報や相談を呼び掛けている。 
 教員によって、いじめに対する見方には差があるだろうから、見つけ方にも工夫が必要になる。今回はいずれも学校が対応した後に登校などできるようになっているという。子供の様子を注意深く見て、被害を受けている子に寄り添い、いじめた子に適切な指導をすることが大切だ。 
 調査では「福島へ帰れ」「放射能がうつるから来ないで」などと、心ない言葉のいじめも明らかになった。
 
 他者を思う気持ちが欠けた言葉が出てくる背景には何があるのか。 
 いじめは子供社会の中だけに原因があるのではない。放射線への理解不足や賠償金に対するねたみといった、周囲の大人の避難者への誤解や思いやりのなさが原因と言える。 
 松野博一文科相は調査結果を受けて、保護者らに「避難者への誤解や放射線に関する理解不足からくる大人の配慮に欠ける言動があるとも考えられる」との見方を示した。 
 子供は大人をよく見ている。私たち大人の「ざらついた心」が、いじめを誘発することをもっと意識しなければならない。