2017年5月2日火曜日

02- 原発推進の必要性が消滅 安価なシェールガス輸入急増

原発、推進の必要性が消滅
安価なシェールガス輸入急増、安倍政権は再稼働に邁進
横山渉 ビジネスジャーナル 2017年5月1日
 東京電力福島第一原発事故から6年が経過したが、建屋内部の状況については、いまだに詳細がわからない。ほとんどの世論調査において、国民の過半数が原発再稼動に反対しているが、安倍政権は再稼動に猛進している。先日も、関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止め仮処分に対して関電が申し立てた抗告審で、大阪高裁は再稼働を認める決定を出した。
 
 原発が必要だとする意見は一定数ある。その根拠としては「再生可能エネルギーは原発の代わりにならない」「石油・天然ガスは高いので電気料金が上がる」「原発は温暖化ガスを出さない」などといったものだ。
 確かに、現時点では太陽光や風力などの再生可能エネルギーだけに頼ることはできない。原発停止後、電力供給を中心的にまかなってきたのは火力発電だ。今後も短期的には火力発電に頼らざるを得ないが、燃料として石油よりも安上がりになる可能性があるのが、米国産シェールガスだ。シェールガスは天然ガスの一種で、従来採掘不可能だった地層から天然ガスを産出することに成功した米国では、05年頃から天然ガスの生産量が急増し、いわゆる「シェール革命」が起きた。シェール革命でエネルギー価格体系が変わり、世界のエネルギー供給構造が大きく変化している
 
 その米国産シェールガスが1月6日、初めて日本に輸入された。これは、中部電力と東京電力が出資しているJERA(ジェラ)が買い付けたLNG(液化天然ガス)だが、日本のエネルギー市場において大きな意味がある出来事だ。日本では現在、LNGは石炭を抜いて、石油に次ぐ第2位のエネルギー源である。
 電気料金の情報サイト「エネチェンジ」の巻口守男副社長はシェールガスへの期待感をこう語る。
「パナマ運河の拡幅工事も終わり、本格的にメキシコ湾岸から日本への輸入が始まったわけですが、地政学的要素を持っている中近東由来のLNGと違い、安定的なエネルギー供給を得られる意味は大きいです。しかも、OPEC(石油輸出国機構)の減産が決定しても原油価格がなかなか上がらないのは、シェールガスの存在が大きく、我々消費者は大きな恩恵を期待できると考えています」
 
エネルギー確保のうえでリスク分散
 日本はLNGの大半を中東や東南アジアに頼ってきた。これらの調達価格は原油価格と連動する。だが、シェールガスは米国内のガス市場価格に連動するため、国際的な原油価格の影響を受けない。日本にとって、調達先を拡充し多様化することは、エネルギー確保のうえでリスク分散になる。
 原油は投機の対象ともなるため、リスクマネーが流入すると価格は実際の需給と関係なく乱高下することがある。08年には1バレル145ドルにまで暴騰した。日本のLNG調達価格は、こうした影響をもろに受けてしまうリスクを抱えていた。
 一方、米国ではシェール革命による生産増加によって需給が緩み、ガス価格はアジアでの取引価格よりも割安で、この傾向はしばらく続くと見られる。JERAからLNGの供給を受ける東電や中電にとっても、メリットは大きい。
 原発が次々と稼働停止し、大手電力会社はその分の電力供給を補うためにLNGを燃料とする火力発電所を稼働させた。LNGの輸入量が激増した時期は、原油価格が1バレル100ドル超と高騰していたタイミングで、これは大手電力の経営を悪化させる一因となった。今後はリスク分散で経営の選択肢が広がるだろう。
 
原発を推進する「理由」
 JERAが1月に輸入したのは2週間分の燃料に当たる7万トンだけだが、今年は計約150万トンを調達する計画だ。18年後半には年間調達総量の1割に当たる計400万トンに拡大するとしている。東京ガスも今年度後半には140万トン、大阪ガスは18年に220万トンを調達する予定だ。それぞれ年間のLNG調達量の1割、2割超に相当する。こうした動きが本格化すれば、消費者は料金の低下という恩恵を受けられる可能性も出てくる。
 米国ではメリーランド州、ルイジアナ州、テキサス州に4つのLNG輸出基地を建設中。アジア・欧州向けの拠点となり、16~19年の稼働開始を予定している。ドナルド・トランプ米大統領は資源開発に積極的といわれ、このことも追い風になるかもしれない。
 
 気になるのは、天然ガスの環境負荷だが、自然エネルギー財団の大野輝之常務理事はこう語る。
「天然ガスのコンバインドサイクル発電は、化石燃料を用いた火力発電のなかでは、もっとも二酸化炭素排出量が少ないので、石炭火力よりはずっといいものです。パリ協定によって、今世紀後半には温室効果ガス排出ゼロを実現しなければなりませんし、まず電力部門は2050年には排出ゼロにしないといけないので、そこまで展望すれば、いつまでも天然ガスを使うわけにはいきませんが、自然エネルギー100%への過渡的なエネルギーとしては有効だと思います。シェールガスの輸入は、日本の天然ガス調達ルートを多様化し、石油連動だったコストを引き下げる意味があるので、その意味でいいことだと思います。ただ、アメリカではシェール生産にともなうさまざまな環境影響が指摘されているので、そうした問題を抱えていることも認識すべきです」
 
 将来的には再生可能エネルギーをメインにするにしても、短期的には天然ガスに頼らざるを得ないだろう。天然ガスが安く安定的に確保できるのであれば、原発を推進する理由はまったく見当たらない。それでも安倍政権は原発を再稼動するのか。 (文=横山渉/ジャーナリスト)
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