2017年5月16日火曜日

16- 虚偽の出力で再稼働を申請した「常陽」に規制委が厳しく批判 

 「もんじゅ」に代わって高速炉の実験として使用することになった旧実験炉:「常陽」の再稼働に関して、原子力規制委は、4月25日の審査会で熱出力のレベル設定を過小にし事故の想定が甘いなど申請内容が不十分だとして審査をいったん保留にしました。田中委員長は翌日の定例会見で、「ひどい申請内容だ」などと、事業者の姿勢を厳しく批判しました
※  4月27日   高速実験炉「常陽」審査保留に・・・・
 
 実験炉常陽は事業者の日本原子力研究開発機構3月、運転再開に向けた審査を申請し、平成33年度までの運転再開を目指しているものです
 産経新聞が、25日の審査会の概要をレポートしましたので紹介します。
 
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【原発最前線】
「ナナハンを軽の免許で」再稼働申請した「常陽」に猛批判 
原子力規制委「福島反省しているのか」
産経新聞 2017年5月15日
 高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町)の再稼働に向けた審査を原子力規制委員会に申請した日本原子力研究開発機構が、「本当に福島の事故を反省した上で申請しているのか」などと厳しい批判にさらされている。事故時の避難計画が狭い範囲で済むよう熱出力を下げたことや、重大事故の想定の甘さなどが理由だ。原子力機構は高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の運営でも規制委から「必要な資質がない」
と指摘された経緯があり、根強い「不信」をうかがわせている。(社会部編集委員 鵜野光博)
 
「許すわけにはいかない」
 「ナナハンのオートバイを運転しますけれども、30キロをオーバーしないから軽免許でいいですよねというような話でしょう。そういうことを許すわけにはいかない」
 ユニークな比喩を用いながらも強い批判をにじませたのは、規制委の田中俊一委員長。4月26日、常陽の申請をめぐる初の審査会合が開かれた翌日の定例会見での発言だ。原子力機構が常陽の熱出力を従来の140メガワットから100メガワットに下げて申請したことに対する反応だった。
 
 審査会合では、規制庁側と原子力機構との間でこんなやりとりが交わされた。
規制庁 「今回、100メガワットに熱出力を下げる理由を確認したい」
  「100メガワットならUPZ(緊急防護措置区域)が5キロで、それを超えると30キロとなる。30キロのUPZに対応するのは地方自治体含めて時間がかかる。常陽を早期に再稼働して高速炉の開発に資するため、出力を下げて早期再稼働を優先したということです」
規制庁 「原子炉の性能そのものが100メガワットになったということではなくて、運転上の管理の措置として本来140メガワットを100メガワットで運転するということを示したいのか」
  「140メガワットでも十分安全性のある原子炉なので、当然100メガワットで運転すれば余裕がある」
規制庁 「140メガワットの設備として審査を受けるのであれば、きちんと熱出力140メガワットと記載すべきと考える。出力は設備の審査を受ける上で重要な前提条件だ」
 規制庁側は原子力機構の主張をこうはねつけ、「審査保留にして補正申請、再申請を待つ」と言い渡した。
 
「安全軽視したつもりはない」
 田中委員長は会見で「保留は当然」とし、「ナナハン」のたとえに続いて「地元に対する意識ですよね。説明が手間取って時間がかかるからという、そういう言い方というのは…。ああいうことが公開の場で堂々とおっしゃっているというところに、やはりどこかおかしいのではないかと思う」と原子力機構に対する不信を口にした。
 原子力機構の担当者は産経新聞の取材に、「安全や地元の方を軽視したつもりはない」と説明する。「UPZについては、IAEA(国際原子力機関)の基準に沿った考え方。やりとり的に誤解のある言い方があったかもしれないが…」と当惑した表情も見せた。
 また、「140メガワットの設備をそのまま使うのではなく、100メガワットで申請するに当たって、出力が103メガワットでアラームが鳴り、105メガワットで強制的に原子炉が停止するという設備上の対応も申請書には記述してあった。ただ、あの審査会合は概要を説明する場だったので、資料にそこまでは詳しく書かれていなかった」という。
 
事故想定にも疑問
 規制庁側の批判は熱出力の変更だけではなかった。申請書で原子力機構が提示した「最悪の事態」の想定の甘さもやり玉に挙げられた。以下はそのやりとりの一部。
規制庁 「そもそも一番厳しい事象を選んでいるのか。確率や頻度ではなく、すべて洗い出して厳しいものを選んでいくということ。ここに書いていない事象がたくさんあるでしょう」
   「われわれとしてはもっとも厳しい事象を選んでいる」
規制庁 「(ナトリウム冷却系の)自然循環だって失敗シナリオがあると思う。これはなぜ必ず成功すると言い切れるんですか」
  「先行炉の審査を踏まえ、重大事故に対する措置の失敗までは想定しなくていいという認識で申請している」
規制庁 「だからそこが考えが違う。事象を洗い出してください。これがもっとも厳しいです、それに対する措置はこうです、と」
 
 規制庁が指摘した「自然循環」とは、原子力機構が想定した多量の放射性物質などを放出する事故のうち、「全交流動力電源喪失事故」など2つのケースへの措置で「自然循環冷却による崩壊熱の除去手順を整備」と記している点だ。
 原子炉の冷却剤に水を使っている商用原発と違い、常陽はもんじゅと同様に、冷却材に液体ナトリウムを使っている。
 「自然循環冷却」とは、電源喪失でナトリウムの循環ポンプの運転ができなくなった場合に、熱いナトリウムは上に行き、冷たいナトリウムは下に行くという対流を利用し、動力なしで冷却を行うものだ。原子力機構の担当者は「私たちの認識では、事故時の措置として認められると思っていた。なぜナトリウムの自然循環が認めていただけないのかは、まだ理解できていない」と首をかしげる。
 一方で、「自然循環が失敗という事故想定で、安全を担保する対策がないわけではない」とし、「規制庁と理解の溝があれば、そこを埋めていくための説明をしていきたい」と話す。
 
高速炉の「国内拠点」だが…
 「審査に値する申請内容が示されなかったというか、あまりにも不備過ぎて、本当に福島の事故を反省した上で申請しているのかと言いたいぐらいひどい」。田中委員長は今回の申請をこう酷評した。
 
 規制委は平成27年11月、運転停止中のもんじゅの保守管理でさまざまな問題を起こしていた原子力機構に見切りをつけ、当時の馳浩文部科学相に「機構はもんじゅの出力運転を安全に行う主体として必要な資質を有していない」と指摘。原子力機構に代わる運営主体を具体的に特定するか、特定が困難であればもんじゅのあり方を抜本的に見直すよう勧告した。もんじゅは結局、昨年暮れに廃炉が決まった。
 政府は常陽を高速炉研究・開発でもんじゅに代わる国内拠点として活用する方針を決めている。原子力機構は33年度までに再稼働を目指す計画。使った以上のプルトニウムを生み出す「増殖」については研究が終了しているため、常陽では高速中性子を用いた放射性廃棄物の減量化などの試験を行う方針だ。
 規制庁幹部は今回の常陽をめぐる批判について、「レッテルを貼って、同じ事業者だからだめだということではない」と話す。ただ、申請については「設備の中身が何にも変わっていないのに出力を下げましたでは、それじゃ審査できないよ、ということ」とあきれた表情を見せる。
 規制庁の審査保留を受けて、原子力機構は今後、補正申請を行う予定だが、「厳しいご指摘を受けたので、どういう補正になるかは検討中」という。担当者は「規制庁のニーズをとらえるところからやっていき、意見が違うところがあれば丁寧に説明したい。前回のように、議論がかみ合わないままにならないように準備しようと思っている」と話した。
 
 【高速炉】 核分裂反応を起こすために、飛ぶスピードが速い「高速中性子」を使う原子炉の総称。炉心の熱を取り出す冷却材に水を使う一般の原発(軽水炉)と異なり、中性子を減速させないために液体ナトリウムを使う。炉心の周りに増殖用の燃料を置き、使った以上の燃料を生み出すものを「高速増殖炉」と呼ぶ。燃料を組み替え、放射性廃棄物を減らす研究にも使われる。フランスは廃棄物対策に主眼を置いて研究開発を行うが、ロシア、中国、インドなどは燃料増殖志向で開発を進める。 
 
 【常陽】 高速増殖実験炉「もんじゅ」の前段階に位置づけられる施設で、昭和52年に臨界。もんじゅと同様にプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を用いる。発電設備はない。平成19年に原子炉内の実験装置のトラブルで運転を停止し、27年に復旧工事を終えた。