2017年7月4日火曜日

04- 規制委員が激高した東電「凍土壁」問題 詳報

 東電が28日、福島原発1~3号機原子炉建屋に流れ込地下水の流入量は、主に周辺に増設した井戸ポンプで汲み上げて減らしているのが実態なのに、流入量が400トンから100トンに減じたのは凍土壁による効果だと主張したことに、更田規制委員長代理が激怒したことについて、産経新聞がその詳細を報じました。
 それによると、要するに東電が凍土壁の「ビフォー」と「アフター」の示したものは、「ビフォー」は昨年9月、10月ごろの大雨の時のもので、「アフター(現状)」は、その後サブドレン量をアップした最近の100ミリ降雨時のもので、同じ条件ではなかったというものです。ただ凍土壁の全周凍結自体は、それとは無関係に認められました。
       (関係記事)
6月30日 東電説明に「凍土壁の効果はウソ」規制委が激怒
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「人を欺こうとしている」規制委員が激高した東電「凍土壁」資料 
 怒りの理由は
産経新聞 2017年7月3日
 「嘘だよ、このページ。人を欺こうとしているとしか思えないよ」。6月28日、廃炉に向かう東京電力福島第1原発の現状を検討するため開かれた会合で、更田(ふけた)豊志委員長代理は、東電のプレゼンテーション資料に声を荒らげた。資料にあったのは、東電が汚染水対策として進めてきた「凍土遮水壁」の図。何が問題だったのか。(社会部編集委員 鵜野光博)

「まったく理解できない」
 舞台は「特定原子力施設監視・評価検討会」。更田氏がやり玉に挙げたのは、プレゼン資料8ページ目の「サブドレンによる地下水位制御性の向上」と題した図だ。サブドレンとは井戸のことで、山側から原子炉建屋に流れ込んで汚染水となる地下水を少しでも減らすため、建屋手前でくみ上げている。ただ、くみ上げ過ぎると今度は建屋の中から汚染水が漏れ出てしまうため、コントロール(地下水制御)が必要となる。

 描かれた図は「ビフォー・アフター」になっており、左の図(ビフォー)では雨が降るとサブドレンの処理能力を超え、建屋への流入量が増えていた。しかし、右の図(アフター)では陸側遮水壁(1~4号機をぐるりと囲んだ凍土遮水壁のうち、地下水の流入を防ぐ陸側の部分)の凍結・閉合を進めたおかげで、雨が降っても井戸内の水位を安定的にコントロールでき、建屋への流入量は増えていないように見える
 実は、プレゼン資料の前のページには、今年1~3月にサブドレンを強化したこと、そしてサブドレンがくみ上げた水量が、遮水壁の閉合が進んでも特に減少していないことが実測値で示されていた。
 更田氏「私、この説明まったく理解できなくて、むしろ間違いなんじゃないかと思うんだけど、もう1回説明してもらえますか」

「陸側遮水壁、何も関係ないじゃん」
 これに対し、東電側が遮水壁の効果を強調した説明を繰り返した後、更田氏は再び尋ねた。
 更田氏「後段(右の図)は現状ですか」
 東電「現状です。ただ、左は(台風などの影響を受けた)昨年9月、10月ごろの大雨の時を示していますが、現状は最近の100ミリ降った状況です。同じ条件ではありませんが、現状を整理させていただきました」
 ここから、更田氏は怒りのモードになる。
 更田氏「整理をさせていただいたというのは結構なんだけど、私は8ページは人を欺くものだと思いますよ、これ。左右に並べて描いてありますが、これは比較できるものではないんです。条件が違うんです。くみ上げ量減少となっているけど、サブドレンのくみ上げ量のどこが減ってるんですか。全然減ってないですよね。減ってますかこれ。これを減少と呼ぶんですか。東京電力!」
 東電「ちょっと説明が適当ではなかったと思います」
 更田氏「適当ではなかったってどういうこと。間違っていたっていうことですか」
 東電「サブドレンの稼働率が向上していると…」
 更田氏「強化したんだから当たり前でしょう。嘘だよ、このページ。人を欺こうとしているとしか思えないよ。嘘だもん、これ。陸側遮水壁、何も関係ないじゃん、これ」
「学会なら10人が10人怒り出す」

 背景を少し解説すると、昨年3月から凍結を始めた凍土遮水壁は、完全凍結によって地下水位が下がりすぎないように、陸側の1カ所を規制委の指導で未凍結のまま残している。東電は遮水壁とサブドレンの組み合わせで地下水位をコントロールできるとして、この会合に先立つ26日、最後の部分を凍結させる工事の認可を規制委に申請。プレゼンで遮水壁の効果が強調されたのは、そうした事情もあった。

 東電は「資料を作った人間は雨が多い時の状況について少し特異的に書いているんですが、その部分の説明が十分ではなかった。決して欺こうとしているものではありません」と弁解を試みたが、更田氏の怒りは収まらなかった。
 「こういう絵を描いている限り東京電力は信用されない。『理解できない』と言ったら『左右の図は比較できる条件ではありません』って。『これはこういう意図で描いてます』『これはこういう理解で描いてます』。そんな説明が後から後から出てくる図を描く限り、東京電力は信用されないですよ」
 「大雨が降ったときと今とでこうなっている。大きな違いは雨じゃないですか。陸側遮水壁は関係ないよね。悪いときの状況を描いて見せて、今の状況を見せて、よくなったというのは、アンフェアだよ」
 「欺こうとしていないなら、あまりに稚拙なやり方だし幼稚ですよ。学会でこんなことをしたら10人が10人怒り出します。とてもじゃないけど受け付けられる説明じゃない」

一転、完全凍結認可の方針に
 他の出席者と東電の質疑に移り、更田氏の口調は穏やかになったが、「陸側遮水壁というのは大雨対策に聞こえる。それはそれで結構で、ないよりはいい」と評価はあくまで控えめ。「完全凍結したときに恐れるのは、建屋内水位との逆転もそうだが、大きな降雨があったときに(凍土壁で囲った内側が)田んぼのようにならないかという恐怖がある」との懸念も示した。
 この時点で、やりとりを聞いていた報道陣の間では「完全凍結は見送りでは」との印象が強まっていた。ところが、格納容器内のロボット調査の議論などを経て、最後のまとめで更田氏は「サブドレンのくみ上げ量からみたら、私は認可に対してそんなに否定的ではない。さっきの東電の説明を真に受けると認可できなくなってしまうが、それはさておいて」と、意見を高坂潔・福島県原子力総括専門員に求めた。高坂氏は「特に異論はない。県の方も早く閉めてくれという要望も出ているようだ」と述べ、東電に安全運転管理を要望した。
 結局、完全凍結は認可の方針となった。早ければ7月中にも認可され、東電は凍結作業に入る。地元・福島県の意向を踏まえた上で、建屋内水位との逆転がない見通しであることが最大の理由のようだ。

 1500本の凍結管で1・5キロを囲む前例のない規模の凍土遮水壁には、国費約350億円が投入されている。その「完成」を事実上決定した場としては、あまりに否定的な言葉が並び、消極的な姿勢も目立った会合だった。

  特定原子力施設監視・評価検討会 
福島第1原発の廃炉に向けた取り組みについて検討する会合。平成24年12月から29年6月まで54回開かれている。規制委では更田豊志委員長代理が担当委員で、橘高義典・首都大学東京大学院都市環境科学研究科教授ら外部専門家4人、原子力規制庁の担当者6人、東電の事故対策担当職員で構成。福島県原子力専門員と資源エネルギー庁の担当者がオブザーバー参加する。特定原子力施設は原子炉等規制法に基づいて国が指定した特別な管理が必要な施設で、福島第1原発が初めて指定された。