2017年7月1日土曜日

東電経営陣「予測は不可能」と無罪を主張 強制起訴初公判

 福島原発事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電元会長の勝俣恒久被告ら旧経営陣3人の初公判が30日、東京地裁で開かれました。
 検事役の指定弁護士は冒頭陳述で、東電は震災の3年前に福島第一原発に最大で高さ15・7mの津波が押し寄せるとの試算結果を得ており、武黒、武藤両元副社長はそれを認識し、勝俣元会長も大津波の可能性が指摘された社内会議に出席していたことから「知ることができた」にもかかわらず「何らの具体的な対策も講じず、漫然と原発の運転を継続し事故に至った」と強調しました。
 勝俣元会長らは罪状認否で「今回の津波や事故の予測は不可能だった。刑事責任はない」と起訴内容を全面的に否認し、無罪を主張しました。
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福島事故で強制起訴、初公判 東電元会長ら無罪主張「予測は不可能」
東京新聞 2017年6月30日
 二〇一一年の東京電力福島第一原発事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電元会長の勝俣恒久被告(77)ら旧経営陣三人の初公判が三十日、東京地裁(永渕健一裁判長)で開かれた。原発事故の刑事責任が裁判で争われるのは初めて。検察官役の指定弁護士が起訴状を朗読した後、勝俣元会長は罪状認否で「今回の津波や事故の予測は不可能だった。刑事責任はない」と起訴内容を全面的に否認し、無罪を主張した。
 ほかに起訴されているのは、ともに元副社長の武黒一郎(71)、武藤栄(67)の両被告。二人は「当時、事故を予測することはできなかった」などと無罪を訴えた。三人はいずれも罪状認否に先立ち、「原発事故で社会の皆さんに多大なご迷惑をかけたことをおわびします」などと述べた。

 指定弁護士は冒頭陳述で、東電は震災の三年前の〇八年三月、国の地震調査研究推進本部の長期地震予測に基づき、福島第一に最大で高さ一五・七メートルの津波が押し寄せるとの試算結果を得ていたと指摘。この試算について、武黒、武藤両元副社長は認識し、勝俣元会長も大津波の可能性が指摘された社内会議に出席していたことから「知ることができた」と主張した。
 さらに、東電は試算を基に実際に津波が襲った敷地東側全面を囲う海抜二〇メートルの防潮堤の建設を検討していたが、〇八年七月に武藤元副社長が土木学会への試算の検討の依頼を指示し「津波対策を先送りにした」と指摘。土木学会の評価でも、福島第一に敷地高(一〇メートル)を超える津波の可能性が指摘され、東電は震災四日前の一一年三月七日には国に試算を報告していたにもかかわらず「何らの具体的な対策も講じず、漫然と原発の運転を継続した」と強調した。「三人が費用と労力を惜しまず、義務と責任を果たしていれば事故は起きなかった」と結論付けた。

 一五・七メートルの試算について、勝俣元会長は国会の事故調査委員会の聴取で「私自身まで上がってきた話ではない」と認識を否定。一方、武黒、武藤両元副社長は報告を受けたことは認めている。
 福島原発告訴団が勝俣元会長らを告訴・告発。東京地検は二度、不起訴処分としたが検察審査会が起訴すべきだと議決し、一六年、検察官役の指定弁護士が強制起訴した。三人が大津波の襲来を予測できたかどうかが、公判の最大の争点となる。

 強制起訴> 検察が不起訴とした事件について、検察審査会が2度の審査で「起訴すべきだ」と議決した場合、議決を受けた者が強制的に起訴される制度。議決には、選挙権のある国民からくじで選ばれた審査員11人中8人以上の賛成が必要で、検察官役は裁判所が選んだ指定弁護士が務める。市民感覚を反映させる司法制度改革の一環で2009年5月に始まった。明石歩道橋事故や尼崎JR脱線事故などが対象となり、福島第一原発事故で9件目。これまで判決が確定したのは8件で、うち有罪は2件にとどまっている。


原発事故 東電旧経営陣3人 初公判で無罪主張
NHK NEWS WEB 2017年6月30日
東京電力の旧経営陣3人が、原発事故の前に津波対策を取らなかったとして業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴された裁判が始まり、3人はそれぞれ謝罪したうえで、「事故は予測できなかった」として無罪を主張しました。一方、検察官役の指定弁護士は「対策を講じていれば事故を避けることができた」と主張しました。
東京電力の元会長の勝俣恒久被告(77)、元副社長の武黒一郎被告(71)、元副社長の武藤栄被告(67)の3人は、福島県の入院患者など44人を原発事故からの避難によって死亡させたなどとして、業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴されました。

裁判では、巨大な津波を予測できたかどうかや、対策を取っていれば事故を防げたかどうかなどが争点になります。
午前10時から東京地方裁判所で始まった初公判で、勝俣元会長は「大変なご迷惑とご心配をおかけしたことを改めておわびします」と述べました。
そのうえで「当時、津波の発生や事故を予測することは不可能でした」などと述べ、無罪を主張しました。
また武黒元副社長と武藤元副社長もそれぞれ謝罪したうえで無罪を主張しました。
一方、検察官役の指定弁護士は「3人は事故の前に敷地を超える高さの津波を予測できた。対策を講じていれば事故を避けることができた」などと主張しました。

原発事故の刑事責任を争う裁判は初めてで、法廷で新たな事実が明らかになるか注目されます。

福島 浪江町の住民は
福島第一原発の事故で業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴された東京電力の旧経営陣3人が30日の初公判で無罪を主張したことについて、避難生活を続けている福島県浪江町の住民からは批判の声が聞かれました。

原発事故で放射線量が比較的高い帰還困難区域に自宅があり、今も仮設住宅で避難生活を続ける浪江町の高木義二さん(81)は「絶対に許せない。6年以上避難生活を強いられ、その間にイノシシに家を荒らされる被害もあった。多くの住民が町に戻れなくなった現状をどう思っているのか。東京電力の幹部には、津波が来ることをあらかじめわかっていたのに安全対策を怠ったというみずからの非を認めてほしい。そして、きちんと謝罪して、われわれの人生や生活を奪った責任をとってほしい」と話していました。