2017年7月29日土曜日

「核のごみ」処分場選定に向け 初の全国地図を公表

 政府は、高い放射能がある高レベル放射性廃棄物を地下300mより深くに埋める「地層処分」の適地を探すための「調査の対象になりうる地域」を示す全国地図を公表しました。
 国は、この地図は処分場の選定に向けた第一歩であるのもも自治体に調査の受け入れの判断を迫るものではないとし、今後各地で説明会を開いて理解を求めたい考えですが、安全性への懸念からこれまで調査の受け入れを表明している自治体はなく、調査地の選定は難航すると見られます。

 なるほど調査の対象になり得る地域を発表する自由はあるかもしれませんが、高レベル放射性廃棄物を埋設して数万年保管するという「地層処分」の適地については、日本学術会議2012年9月に「地震や火山活動が活発な日本列島で、万年単位で安定した地層を見つけるのは難しい。地中深くに埋める国の最終処分計画は安全とは言えない」と結論付けていので、実際に適地が見つかる可能性は限りなくゼロに近いのが実態です。

 それをあたかも日本の各地に地層埋設の適地の可能性があるかのように見せて、原発推進の糧にするのは誤魔化しです。 
※ 7月19日 核のゴミ処分場の調査対象地図 今月中にも公表へ
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「核のごみ」処分場選定に向け 初の全国地図を公表
NHK NEWS WEB 2017年7月28日
原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の処分をめぐり、国は、処分場の選定に向けた調査対象になる可能性がある地域を示した初めての全国地図を公表しました。近くに火山や活断層がないなどの科学的な基準から調査地の可能性が示された地域は国土の3分の2に上っています。
原子力発電所の使用済み核燃料を再処理した際に出る、高い放射能がある高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」について、国は、地下300メートルより深くに埋める「地層処分」にする方針です。
この処分場をめぐり、国は、近くに火山や活断層がないなどの科学的な基準に基づき、地域ごとの適性を示した全国地図「科学的特性マップ」を初めて作成し、公表しました。

このうち、処分場として「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い地域」は薄い緑色と濃い緑色で示され、面積にして国土のおよそ3分の2に上っていて、これらの地域は、将来的に処分場の選定に向けた調査対象になる可能性があるとしています。
中でも、海岸から20キロ以内を目安とした地域は、想定される廃棄物の海上輸送に好ましいとして濃い緑で示され、こうした地域が一部でも含まれる市区町村は900余りに上るということです。
一方、近くに火山や活断層があったり地盤が弱かったりする地域はだいだい色で、油田やガス田など資源がある場所は銀色で示され、いずれも処分場として「好ましくない特性があると推定される」としています。

国は、この地図は処分場の選定に向けた第一歩だとする一方、自治体に調査の受け入れの判断を迫るものではないとしていて、今後、各地で説明会を開いて理解を求めたい考えです。
ただ、調査対象となる可能性がある地域が広い範囲に及ぶうえ、安全性への懸念からこれまで調査の受け入れを表明している自治体はなく、調査地の選定は難航すると見られます
一方、使用済み核燃料の中間貯蔵施設などがある青森県と、東京電力福島第一原発の事故があった福島県について、国は「これ以上の負担をかけたくない」などとして、配慮して対応する方針です。

’’核のごみ″処分適地マップの詳細は、下記のURLの特設サイトでご覧になれます。

「核のごみ」とは
高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」は、原発から出る使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムなどを取り出したあとの廃液をガラスで固めたものです。

初期の段階では10数秒被ばくすると死に至る極めて強い放射線が出ていて、人が生活する環境から数万年にわたって隔離する必要があることから、国は金属製の容器に入れて地下300メートルより深くに埋める「地層処分」をする方針です。

国内では、ことし3月末の時点で、青森県六ヶ所村や茨城県東海村の施設で2400本余りが保管されているほか、各地の原発には「核のごみ」のもととなる大量の使用済み核燃料がたまり続けています。

処分場選定難航の経緯
いわゆる「核のごみ」の処分は、日本で原発の利用が始まって半世紀がたつ今も処分場が決まっておらず、原子力が抱える最大の課題と指摘されています。
日本で処分場の選定が本格的に始まったのは平成12年でした。
電力会社などが新たな組織をつくって全国の市町村から候補地を募集し、国も、応募した自治体に最初の2年間だけでも最大20億円の交付金が支払われる仕組みを設けました。
しかし、平成19年に高知県東洋町が応募したあと住民の反対などによってすぐに撤回したほかは、応募はありませんでした。

候補地選びが難航する中、国の原子力委員会は、平成24年、国民の合意を得るための努力が不十分だったとしたうえで、国が前面に出て候補地選びを行うべきだとする見解をまとめました。
これを受けて、国は3年前、自治体の応募を待つ従来の方式に加えて、火山や活断層の有無などを踏まえ、国が自治体に処分場の選定に向けた調査を申し入れることができる新たな方式を取り入れ、その第一歩として今回のマップが公表されました。
処分場選定は3段階で調査
今回公表されたマップを受けて、今後、自治体から応募があったり、国が自治体に調査を申し入れたりした場合、処分場の選定に向けた調査が行われることになります。

調査は法律に基づいて3段階で行われ、はじめに、文献をもとに、過去の地震の履歴のほか、火山や断層の活動の状況などを2年程度かけて調べます。
その次に、ボーリングなどを行い、地質や地下水の状況を4年程度かけて調べます。
その後、地下に調査用の施設を作り、岩盤や地下水の特性などが処分場の建設に適しているか、14年程度かけて詳しく調べます。
これらの調査は全体で20年程度かかることになっています。
自治体が調査を受け入れると、最初の文献調査で最大20億円、次のボーリング調査などで最大70億円が交付金として支払われることになっていますが、国は、いずれの段階の調査も自治体の意見を十分に尊重し、自治体が反対する場合は次の調査に進むことはないとしています。

住民理解をどのように得ていくのかが課題
処分場の選定を進めるにあたっては、周辺住民の理解をどのように得ていくのかが課題になります。
国は平成12年に処分に関する法律を作り、平成14年以降、電力会社を中心に設立したNUMO=原子力発電環境整備機構が全国の自治体から処分場の候補地を募ってきました。
しかし、平成19年に高知県東洋町が唯一応募しただけで、その東洋町も住民の反対などにより応募は撤回されました。

平成18年には、滋賀県余呉町の町長が処分場の誘致を前提に調査に応募する方針を明らかにしましたが、「理解を示す住民の声は小さい」として応募を断念しています。
このほか、秋田県の上小阿仁村や長崎県対馬市などでも処分場を誘致する動きがありましたが、いずれも住民の反対で応募するまでには至りませんでいた。
経産相「理解得られるよう地道に努力」
地図が公表されたあと、28日午後3時すぎ、世耕経済産業大臣は記者団に対し、「重要な一歩だが、一方で長い道のりの第一歩になる。国民に対してしっかりと対話を行い、理解を得られるような努力を地道に続けていきたい」と述べました。

また、世耕大臣は、福島県について「東京電力福島第一原子力発電所の廃炉や除染作業などが優先される。地図についての対話活動は予定していないし、高レベル放射性廃棄物の問題で何か負担をお願いすることは全く考えていない」と述べました。
青森県知事「取り組み加速を」
青森県の三村知事は「最終処分地の早期選定に向けて国が前面に立ち、不退転の決意で国民の理解促進に向けた取り組みを加速させてもらいたい」などとするコメントを発表しました。

北海道「受け入れがたい」
北海道の担当者は「今回の発表は、自治体に対して受け入れに向けた判断を求めるものではないと理解している。道としては、平成12年に制定した条例に基づき、『高レベル放射性廃棄物の持ち込みは受け入れがたい』という姿勢を続けていきたい」としています。
財界「評価したい」
経団連の榊原会長は「高レベル放射性廃棄物の最終処分は、原子力発電を利用するうえで避けて通ることのできない重要な課題だ。今回の地図は最終処分問題について対話を積み重ねるうえで重要なツールになるもので、国が前面に立って重要な一歩を踏み出したことを評価する」というコメントを出しました。

また、経済同友会の小林代表幹事は「最終処分については政府が主導して問題を解決する姿勢を明確にしており、今回の発表はこの方針に基づいた具体的アクションとして評価したい。政府には対話活動を丁寧に積み重ねて国民の理解と信頼を得ることを期待したい」とコメントしています。

専門家「信頼なければ困難も」
原子力と社会の関わりに詳しい東京電機大学の寿楽浩太准教授は「マップが示されたことで核のごみについて問題の存在を知り、みずから調べて考える機会が増えるということはあるだろう」と話し、一定の評価をしました。

そのうえで、処分場選定に向けた取り組みを進めていくうえでの課題について、「原子力政策をめぐる政府や関係機関、専門家に対する信頼というのが必ずしも十分ではないなかで、マップを示したり、住民対話のイベントを開いたりしても、それは本当なのかと疑念をもたれてしまう。特にこの問題は、数万年とか十万年とか極めて長い期間にわたって安全性やリスクを考えなくてはならないので、少しでも疑念を持たれると議論が深まらず、事態が進まないということもありうる。関係者は処分場の問題に限らず、原子力政策や事業全般にわたって改めて、えりを正してもらわないと、困難に直面するのではないか」と指摘しました。
一方、世耕経済産業大臣が青森県と福島県には配慮したいという認識を示したことについて、「これまでの約束とか福島第一原発の事故に鑑みて、そうした配慮をすることはもっともだと思うが、問題は、一度、約束したのであれば、今後もたがうことなく進めていくことが必要だ」とし、「こうした約束があることをほかの地域にも説明を尽くすことが社会の納得を得るうえで大事だ」と話しています。

「核のごみ」 海外の状況は
高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」をどう処分するかは、原発のある各国でも大きな課題となっています。
「核のごみ」は放射能レベルが極めて高いため、現時点では、地下深くに埋めて人が生活する環境から隔離する「地層処分」が各国共通の考え方です。
しかし、処分場の予定地が決まっているのは、おととし国の建設許可が下りて処分場の建設が進められているフィンランドと、地質調査などを終えたスウェーデンだけです。
また、フランスは候補地をほぼ1か所に絞り、詳しい地質などの調査が進められているほか、カナダやスイスでは、候補地を絞り込むための調査や住民への説明が行われています。
一方、イギリスはいったん自治体が誘致に関心を示しましたが、2013年に住民の反対で計画が白紙に戻ったほか、アメリカも候補地を絞り込んだものの、2009年に環境汚染の懸念から計画が撤回されたままとなっています。
また、ドイツでも、候補地を1か所に絞り込んだものの、反対運動を受けて2000年に計画は凍結され、処分場の選定手続きが見直されることになりました。