2017年8月10日木曜日

福島原発の溶けた核燃料はどこに

 福島原発原子炉の溶融核燃料の所在がどうなっているのかは、これまでヘビ型ロボット、サソリ型ロボットそしてマンボウ型ロボットによる探索などで断片的に報じられてきました。
 日経新聞が、7月初めに開かれた「第2回福島第一廃炉国際フォーラム」で、東電の溝上伸也氏が公表した推定をもとに、全体の状況について分かりやすく解説してくれました。
 1号機~3号機におけるいわゆる燃料デブリの所在とその生成経過の概要が分かります。
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福島第1の溶けた核燃料どこに 見えてきた現実  編集委員 滝順一
日経新聞 2017年8月7日
 東京電力福島第1原子力発電所の格納容器内の調査が進んでいる。溶融した核燃料はいったいどこにあるのか。それは廃炉の進め方にもかかわる重要な情報だが、少しずつわかってはきている。7月初めに福島県いわき市で開かれた「第2回福島第一廃炉国際フォーラム」(原子力損害賠償・廃炉等支援機構が主催)で、東京電力ホールディングスの溝上伸也プロジェクト計画部解析評価グループマネージャが公表した推定をもとに状況を解説する。

 福島第1の1~3号機に共通するのは、核燃料が本来あるべき位置(炉心)には存在せず溶け落ちている点だ。核燃料が溶け落ちて固まった場所は1~3号機で状況が異なり、1号機ではほとんどが格納容器の底部(ペデスタル)にまで落ちていると考えられる。2号機も溶けた燃料がペデスタルまで落ちているが、一部は圧力容器内で固まっているとみられる。3号機はその中間の状況だと推定される。この違いは事故の際の冷却のタイミングの差によって生じた。現在はいずれの溶融燃料も注入した水で冷やされている。

■1号機、溶けた燃料が格納容器外壁を損傷の疑い
 1号機は津波到達直後から冷却ができない状態に陥り炉心溶融に至ったとみられる。消防車による注水は間に合わなかった。

 宇宙線のミューオンで原子炉を透視した結果からすでに炉心に核燃料が存在しないことがわかっている。また2011年12月(事故から9カ月後)に炉心の真上(炉心スプレイ系=CS系)からの注水を始める以前から格納容器内の温度が100度を下回っていたことからも溶融燃料はペデスタルに落ちて水につかっている状態だったと推定される。

 ペデスタルには冷却水配管(原子炉補機冷却系)が通っている。この配管の延長上にある機器類(格納容器の外にある)が放射性物質でひどく汚染されている。このことから溶けた燃料がペデスタルの冷却水配管を破損し放射性物質が配管系に流入したと考えられる。

 また格納容器底から外部に水が漏れ出していることがすでにわかっており、溶融燃料がペデスタルのコンクリート製の床を浸食しステンレス製の格納容器外壁にまで到達、損傷を与えたことが疑われている。このことは高温の溶融燃料が冷却されないまま、ある程度長い時間、存在したことを示唆する。
 1号機の格納容器は現状では深さ約1.6メートルまで水がたまっており核燃料は水没しているとみられる。

 東京電力は今年3月、格納容器内にロボット(ヘビ型)を入れてペデスタル外側の水中を調査した。このとき水底に砂状の堆積物が見つかり、その厚みは約30~90センチに達していることがわかった。何がどうしてここに積もっているのかはわからない。その一部は注入した海水に混じっていた砂ではないかとの見方もあるが、はっきりしない。東電は少量の試料を採取しており詳細な分析に取り組んでいる。

■2号機、炉心外周部に燃料が溶けずに残る可能性
 2号機は電源なしで動く冷却系が働き3日間燃料溶融を免れていたが、3月14日に注水ができなくなり核燃料が露出した。その後、消防車による注水で高温状態の核燃料に水をかけたことから、燃料のさや管(ジルコニウム合金)と水が反応して発熱、燃料溶融に至ったと東電では分析している。運転停止直後からすぐに炉心溶融に至った1号機とは異なり、冷却期間があったことから燃料の溶け方が1号機ほどではなかったと推定される。

 2号機では炉心の真上からの注水を11年9月に始めるまで格納容器内部の温度がなかなか100度以下に下がらなかった。また水の入り方から炉心の周囲にある「シュラウド」と呼ばれる金属製の囲いの損傷がそれほど大きくない可能性が示唆されている。
 このため炉心の中心部は燃料が溶け落ちているが、外周部には燃料が溶けずに残っている可能性がある。また溶けた燃料も一定量が圧力容器の底に固まっていると推定される。これはミューオンによる透視でも裏付けられている。

 2号機では今年2月にロボット(サソリ型)を格納容器内に送り込んで圧力容器を下側から見た。制御棒を動かす装置や電源ケーブルが残る部分が確認できた一方、圧力容器の下にある作業用足場(グレーチング)が一部脱落しているとわかった。溶融燃料の一部は圧力容器底部からペデスタルに落ちていると考えるのが自然だが、その量は1号機に比べて少ないと推定される。

■3号機、格納容器に落ちた核燃料は1号機より多い?
 3号機も全電源喪失後しばらく冷却ができていた。しかし3月12日夜から注水ができなくなり、圧力容器内の水位が下がって核燃料が露出、崩壊熱で溶けた。その点では1号機の状況と似ているが、原子炉のスクラム(緊急停止)から丸1日以上は冷却が続けられたことに加え、炉心溶融を止めるには間に合わなかったものの、溶融の2~3時間後に消防車による注水が開始されたことから、原子炉の損傷は1号機ほどひどくはなかったと推定される。

 ただ4号機と3号機で2回の爆発を起こすのに必要な水素の発生量を考えると、圧力容器内で起きた水-ジルコニウム反応でできた水素だけでは足りず、溶融燃料がペデスタルに落ちてコンクリートを浸食した際に発生した水素を勘定に入れなくてはならない。相当の量が落下していると考えられる。
 この点については7月20~22日に行われた水中ロボット(マンボウ型)の調査で圧力容器下のグレーチングがほとんどなくなっていることからも類推される。また27日に公表されたミューオンによる透視の中間的な結果でも圧力容器底部には大きな核燃料物資はないらしいと判明した。

 1号機は炉心にあった燃料集合体が400体なのに対し、出力が大きい3号機は548体あった。溶け方に少々違いがあったとしても格納容器に落ちた核燃料の量は1号機より3号機の方が多いかもしれない。
 各号機について圧力容器内に残る量や下の底部まで落ちた量がどれくらいの割合であるのかについては、東電では定量的な分析ができるまでには至っていない。ここは詳しく知りたいところだが、定量的な分析がなくても、その在りかがわかれば燃料デブリの取り出しには進んでいけるとみられる。

<取材を終えて> 確度の高い貴重な分析
 溝上さんの説明はこれまで指摘されていた炉内状況と大筋で変わりない。ただ複数の調査結果を組み合わせて割り出した確度の高い推定として貴重な分析だと思う。
 取材後、7月31日に原子力損害賠償・廃炉等支援機構が溶融燃料の取り出し方針について福島県の関係者に説明した。格納容器の横に穴を開けロボットアームなどで底部にある核燃料を取り出す計画だと報じられている。格納容器を水で満たして上から作業する「水中工法」は採用しないという。
 格納容器の破損箇所をすべてふさぎ満水にするのは難しいと判断したのだろう。またペデスタルにほとんど核燃料が落ちて水につかっているなら、核燃料から出る強い放射線は水によって弱められているとみたのかもしれない。ただロボットの調査で、事故時に溶融燃料から出た様々な放射性物質が格納容器の壁や機器類に付着しているらしいとわかった。
 放射性物質を外に飛散させることなく、作業者を被曝(ひばく)させないで核燃料取り出しを進めるには慎重で用意周到な作業が求められるだろう。