2017年9月7日木曜日

合格急ぐのか? 柏崎刈羽原発の審査で規制委軟化

 柏崎刈羽原子力発電所67号機の再稼働に向けた審査に関して、6日開かれた原子力規制委、次回13日の会合で事実上の合格を意味する審査書案の取りまとめについて最終的に判断することになりました。

 その件に関して5日付の産経新聞が、規制委が30日に東電の川村隆会長と小早川智明社長から原発の安全対策についての説明を聞き、その後に田中委員長が記者会見で述べた内容について深堀りをした記事を掲げました。
 
 NHKの記事と産経新聞の記事を紹介します。
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柏崎刈羽原発 事実上合格最終判断へ
NHK NEWS WEB 2017年9月6日
新潟県にある柏崎刈羽原子力発電所6号機と7号機について再稼働の前提となる審査で、原子力規制委員会は、東京電力の安全に対する姿勢に一定の理解を示し、次回の会合で事実上の合格を意味する審査書案の取りまとめについて最終的に判断することになりました。

柏崎刈羽原発6号機と7号機の再稼働の前提となる審査の一環として、原子力規制委員会は、東京電力の、福島第一原発の事故を受けた安全に対する姿勢や、廃炉に伴う対応などについて、具体的な取り組みを示すよう求め、経営陣との面会などを行ってきました。
6日の規制委員会では、委員から「柏崎刈羽原発をきちんと運転することが福島の事故への責任の取り方だとする考えに一定の理解をする」とか、「事故の体験が、組織の安全文化を高める方向に向かっていると受け止めた」といった意見が出されました。

しかし、一部の委員からは「東京電力の決意表明は受け止めるが、それだけで柏崎刈羽原発を運転する適格性があると判断していいのか」との指摘も出され、今月13日にも開かれる次回の会合で、事実上の合格を意味する審査書案の取りまとめについて、最終的に判断することになりました。

事故を起こした東京電力の原発が再稼働に向けた審査に事実上、合格すれば初めてのことで、福島第一原発と同じ沸騰水型と呼ばれる原発でも初めてです。
ただ、柏崎刈羽原発について新潟県の米山知事は、福島第一原発の事故の検証が終わるまで再稼働に必要な地元の同意について判断しない考えを示しています。


 【原発最前線】
合格急ぐ? 柏崎刈羽審査で規制委“軟化” 田中俊一委員長マスコミ批判も
産経新聞 2017年9月5日
 東京電力が再稼働を目指す新潟県の柏崎刈羽原発6、7号機の審査をめぐり、原子力規制委員会が「合格」への判断を急ごうとしている。7月には東電幹部からの意見聴取で福島第1原発の汚染水処理などをめぐり「主体性がない」と厳しい批判を浴びせたが、8月下旬の2回目聴取では容認姿勢がにじみ、田中俊一委員長は近く合否判断を行う考えを示唆。9月18日で切れる自身の任期中に、合格の道筋をつけたいのではとする観測も出ている。(社会部編集委員 鵜野光博)

文書を「言質」に?
「風評被害の対策について誠意と決意を持って取り組む」「福島の廃炉と柏崎刈羽の安全性向上を両立する」「安全性をおそろかにして経済性を優先する考えは微塵(みじん)もない」
 8月25日、東電が規制委に提出した文書には、小早川智明社長名で東電の「覚悟」が記されていた。ただ、そこに具体策はほとんどなかった。

 この文書は、7月10日の意見聴取で規制委が「廃炉に主体的に取り組み、やりきる覚悟と実績を示すことができない事業者に、柏崎刈羽原発の運転をする資格はない」などとする問題意識を提示したものに、東電側が答えたものだ。聴取では廃炉をめぐり、タンクにたまり続けるトリチウム水の海洋放出の問題などに小早川氏らが満足な答えを示せず、田中氏は文書による回答を求めていた。

「この回答は、規制委の判断材料として、(原子炉設置変更)許可申請書と同レベルの位置づけの文書と考えたいが、東電として意見はありますか」
 8月30日の意見聴取の冒頭、田中氏は念を押すように小早川氏に問い、「異存ありません」との答えを得た。具体策が文書中にないことは、約1時間の聴取で言及されなかった。
「経済性より安全性優先」など今回の文書に盛り込まれた内容に特別な新味はない。しかし、「許可申請書と同レベル」とされたことで、今後「言行不一致」が指摘された場合、「合格」そのものが見直されることにつながる。その意味で、規制委は東電から重い「言質」を取ったともいえる。
 ただ、その後の田中氏の会見では報道陣から疑問の声が相次いだ。

記者に「もう少し深く考えて」
 「トリチウム水の海洋放出などで、具体的な回答は求めないということか」
 会見での質問に、田中氏はこう答えた。
 「逆に言うと、明確な回答を出したら、世の中大騒ぎになっちゃうでしょう。漁民が排水(海洋放出)を認めないと言っているのに、東電が排水しますと言ったらどうなりますか」
 このやりとりには前段がある。前回の意見聴取後に東電の川村隆会長が共同通信などのインタビューで、トリチウム水の海洋放出で「判断はもうしている」と述べ、これが「海に放出する方針を明言した」と報じられた。これに全国漁業協同組合連合会(JF全漁連)などは一斉に反発。川村会長が「田中委員長も同意見」などと話したことから、田中氏は「私の名前を使ってああいうことを言ったのは、はらわたが煮えくりかえる」と怒りを表明していた。
「簡単じゃないから、(東電は福島県民と)向き合って話をするべきだということを申し上げた。もう少し言っている意味を深く考えてほしい」。8月30日の会見で田中氏は、具体策がないことを疑問視する報道陣にも注文をつけた。具体策を求めたように解釈できる田中氏の過去の発言に触れると、「そういうのを言葉尻というんです」「記者たる者が何ですか」などといらだちを見せた

「特別な手順」積み上げる規制委
 東電は文書で「経営層が地元に足を運び、対話を重ね、地元の思いに配慮しつつ責任を果たす」としており、「県民と向き合う」という経営委の要望に対しても言質が取られた格好だ。田中氏は「(技術的な)審査書案が近いうちに出てくる。文書を含めて全体として委員会として議論し、判断したい」と述べ、近く合否を決める考えを示した。9月6日の定例会合で文書が俎上に上がる見通しだ。

 福島第1原発事故という歴史に残る重大事故を起こし、廃炉という難事業に取り組みながら、柏崎刈羽原発の再稼働も目指している東電。田中氏は東電を「特別な事業者」と繰り返し指摘し、就任間もない経営陣を呼んだ異例の意見聴取に加えて、7月27、28両日には柏崎刈羽原発に足を運び、審査中の原発を委員長として初めて視察した。規制委としても合否判断を前に「特別な手順」を踏んでいるともいえる。

 ただ、9月18日の田中氏の退任を前に、これらの手順が慌ただしく積み上げられている感は否めない。
 東電は柏崎刈羽原発で重大事故時の対応拠点となる免震重要棟の耐震性不足を示すデータを3年以上公表していなかったことが今年2月に発覚し、規制委が申請書の総点検と再提出を求めた経緯がある。営業畑を歩んできた小早川氏が6月に社長就任し、文書で覚悟は示したものの、現時点で原子力事業の実績はない。委員長の現地視察にしても、2日間の限られた現地職員との対話で、東電の安全文化をどれだけ感じ取ることができたのか。

 田中氏はかつて会見で「福島第1原発事故を起こした事業者の適格性について、われわれが納得できなければ、国民も納得できないだろう」と述べていた。その「納得」を国民に伝わる言葉で示すことができるかどうか、委員長として最後の仕事が問われている。

【用語解説】柏崎刈羽原発
  柏崎市と刈羽村にまたがって位置する沸騰水型軽水炉。敷地面積は約420万m2。合計7つの発電施設があり、総出力は821万2千kW。東電は6、7号機の再稼働を経営再建の柱としているが、新潟県の米山隆一知事は検証が必要との立場で、地元同意の判断までに「少なくとも3~4年かかる」としている。