2018年1月5日金曜日

05- 福島廃炉作業はまだ「登山口」

 今回の産経新聞「原発最前線」シリーズは、福島原発廃炉作業の最高責任者増田尚宏氏による今年の展望です。
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【原発最前線】
福島廃炉作業はまだ「登山口」 デブリ再調査、燃料取り出し
今年の展望は
産経新聞 2018年1月4日
廃炉作業のまだ登山口にいる。山の高さが分からない」。東京電力福島第1原発の廃炉で、東電側の最高責任者の増田尚宏氏は、平成29年12月21日の記者会見でこう述べた。29年は3号機で溶融核燃料(デブリ)が初めて撮影されたり、1~3号機の復水器に残る汚染水の抜き取りを完了したりと進展もあったが、「30~40年」かかるとされる廃炉作業はまだ「登山口」という。今年の展望をまとめる。(社会部編集委員 鵜野光博)

デブリ撮影は2号機で再挑戦
 廃炉作業の工程を定めた中長期ロードマップでは、30年度の目標として「3号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出し開始」「浄化処理水のタンクをすべて溶接型にする」「原子炉建屋内滞留水中の放射性物質の量を、26年度末の10分の1まで減少」-などが掲げられている。昨年半ばまではデブリの取り出し方法の確定も予定されていたが、ロードマップの改定で31年度へと先送りされた。

 廃炉の最大のハードルとなるデブリの取り出しをめぐっては、3号機の原子炉格納容器で29年7月、水中遊泳型ロボットによって、底部に小石状や砂状に堆積した様子の撮影に成功。足場の崩落など格納容器内部の状況も一部明らかになった。一方、2号機では29年1~2月、ガイドパイプとサソリ型自走式ロボットを使った格納容器内調査を行ったものの、ロボットが走行不能になるなどして失敗。1号機でも29年3月、自走式ロボットを投入したが、明確にデブリとされるものは撮影できなかった。
 増田氏は3号機での撮影成功にも「どうやったらデブリを取り出せるかが分かる情報を取れたとは思わない」と表明している

 30年1~2月には、2号機で再びガイドパイプを使った調査を実施する。パイプの先端の到達位置を壁からわずか10センチだった前回から1・4メートルへと大幅に延長し、カメラのほかに線量計、温度計も搭載。格納容器底部にあるとみられるデブリの状況把握が期待されている。

3号機で使用済み燃料取り出しへ
 原子炉内の使用済み燃料プールにある燃料は、4号機だけが26年に取り出しを完了。3号機は30年半ばの取り出し開始が目標で、現在は作業に向けたドーム屋根の設置が進められており、設置は2月に完了する予定だ。

 一方、建屋屋上のがれきなどが高い放射線量を発している1、2号機では、取り出し開始の目標がロードマップの改定で32年度から「35年度めど」へと先送りされた。現在は作業員の安全を確保するため、がれきの撤去に向けた準備作業などが続けられている。

凍土壁は3月めどに効果検証
 原子炉建屋に流入して汚染水となる地下水を減らすため、1~4号機を約1・5㌔にわたって取り囲んでいる凍土遮水壁は、?年8月に最終部分の凍結が開始。?月には地中の温度がおおむね0度を下回ったが、?月の台風による降雨で流入量が大幅に増加し、凍土壁の効果を計れない状態が続いている。
 東電は「評価には時間が必要で、3月がめど」と説明。建屋近くで地下水をくみ上げる井戸(サブドレン)の効果と合わせ、以前は1日400㌧あった流入量は、?年?月には?㌧程度にまで減少したという。

 凍土壁には国費約350億円が投じられ、汚染水対策の切り札とされたが、地下水ではなく大雨による流入には地表面を覆うなど別の対策の強化が必要。凍土壁の「費用対効果」は厳しく問われそうだ。

トリチウム処理水の行方は
 もう一つの水の問題は、高濃度汚染水を浄化した後に残るトリチウム処理水だ。福島第1原発構内に林立する約900基のタンクの大半を占めている。トリチウムは放射線エネルギーが弱く人体に蓄積しないため、他の原発では薄めて海に放出されているが、福島第1原発では風評被害再燃の恐れから、地元の漁業協同組合などが強く反対している。中長期ロードマップで「タンクの溶接型への切り替え」が掲げられているのは、処理水の漏洩(ろうえい)事故が後を絶たないからだ。
 原子力規制委員会は海洋放出を主張しており、東電にこの問題で「地元と向き合う」ことを強く求めている。昨年12月に被災地の自治体を訪問した規制委の更田(ふけた)豊志委員長も、首長らに処理水を海洋放出すべきだという考えを説明した。今年、事態の進展があるかが注目される。

「トラブル続き」反省も
 増田氏が廃炉作業を「登山口」にたとえたのは29年2月の会見でも同じだったが、同年末の会見では「いよいよ廃炉の核心となる作業を開始した手応えをつかんだ」とも述べていた。
 「今はリュックの中に荷物を詰めている状況。さあ上るぞという状況に、来年1年でできればいいが」
 そう期待を示す一方で、29年を振り返って「下半期はサブドレンのトラブルをはじめ、問題を立て続けに起こした。情報発信も足りず、地元に不安を与えた。30~40年続く廃炉の設備としてよりふさわしいものになる必要がある」と自戒を込めて語った。
 ●中長期ロードマップ=東京電力福島第1原発の廃炉作業の工程表。原子力損害賠償・廃炉等支援機構などの提言を基に、政府と東電が策定。事故から30~40年後の廃炉完了を掲げ、作業状況などを反映して改定している。平成23年に初めて策定され、29年に4回目の改定が行われた。