2018年1月1日月曜日

英核施設解体に120年  福島第1原発廃炉の参考に

 英国セラフィールドで本格的に進められている、核兵器製造に使った施設や原子力発電所の核燃料、汚染機材の除去、解体処理は、福島原発の廃炉作業と共通するところが多く、東電も視察団を派遣しているということです。
 英国は、汚染物の除去や解体に120年かかると見ていて、40年やそこらで福島原発の廃炉が出来ると考えている日本の見込みのいい加減さとは対照的です。数百年は掛かるだろうというのが彼らの見方です。
 日経新聞が現地を視察しました。
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英核施設、解体に120年  福島第1原発廃炉の糧に
日本経済新聞 2017年12月31日
 。「120年がかり」という長大なプロジェクトで、周辺には専門のベンチャー企業も育っている。ノウハウは事故を起こした東京電力福島第1原子力発電所の廃炉にも役立ちそうだ。

 田園風景の中に鉄条網やコンクリートブロックに守られた「街」が突如現れる。英原子力廃止措置機関(NDA)が管理運営するセラフィールド拠点だ。総面積6平方キロメートル。山手線に囲まれた面積の約10分の1の敷地に、放射性物質で汚染された200以上の建物や施設が所狭しと並ぶ。

 1950年代に核兵器用プルトニウムの製造に使われていた古い施設などが多い。57年に火災を起こしたウィンズケール原子炉は2本の煙突のうち1本がほぼ元の姿で残る。日本の使用済み核燃料を再処理してきた工場もあり、18年に稼働を停止する。

 「最優先で取り組まねばならないのは高濃度に汚染された池やサイロだ」とNDAのエイドリアン・シンパー戦略技術部長は説明する。
 池とは原子炉の使用済み核燃料などを再処理する際、冷却用に使っていた屋外水槽のことだ。サイロは核燃料の被覆材や核兵器の製造過程で出てきた汚染物質の収納に使った、コンクリート製の多数の小部屋を指す。放射性物質の拡散は観測されていないが、いずれもリスクは高い。

 これらには「後で取り出すことはまったく考えずに何でも入れていた」(シンパー部長)。内部はブラックボックスに近い。中身を回収し危険度に応じて安全な容器などに移すが、まず中の状態を知る必要があり、放射線に耐える遠隔操作ロボットや高感度カメラなどが要る。セラフィールドの英国立原子力研究所の拠点と大学やベンチャー企業が協力して技術開発を進め、現場に投入している。

 セラフィールドで働いた経験のあるマーク・テルフォード氏が創業し社長を務めるフォース・エンジニアリングはNDAと連携するベンチャー企業の一つだ。汚染された池に見立てた25メートルプールより一回り大きい水槽で、試作したロボットやカメラ、解体用の重機などが水中で機能するか実験する
 マンチェスター大学と遠隔操作型の水中遊泳ロボットを開発し、今年10月に直径15センチメートルほどの隙間からセラフィールドのサイロに入れて内部を観察した。指先ほどの小型のカメラも実用化し、池の調査に使い始めている。

 複数のロボットを、信号ケーブルを使わず高周波の音波によって動かす方式も開発中だ。手のひらサイズのドローン(小型無人機)を数十機飛ばし、互いに交信しながら効率よく放射線測定などをするアイデアを温める。「昆虫の交信などからヒントを得た」(テルフォード社長)
 多くの技術は石油や天然ガス開発とも共通する。廃炉は市場が限られるが、同じ基盤技術を異なる分野に応用できれば事業展開しやすくなる。

 セラフィールドの近くにある別のベンチャー企業、クリエーテックはオックスフォード大学で医療診断画像などを研究したマット・メラー社長らが創業した。陽電子放射断層撮影装置(PET)の技術を応用し、放射線の一種のガンマ線を周囲360度にわたって測れる装置を開発した。
 毎時1シーベルト程度の極めて高い線量下でも正常に機能する。ドローンからレーザー光を出して室内の形状や機器の配置を測定できる他の装置と組み合わせれば、サイロ内などの放射能分布の立体マップが作れ、作業計画を立てやすい。

 高濃度に汚染された空間の内部の様子がよくわからない点で、セラフィールドと福島第1原発は必要とする技術が似ている。「東京電力から視察団が来て、ガンマ線測定装置は福島第1原発で使われた」とクリエーテックのメラー社長はいう。

 4つある危険な池のうち容量約1500万リットルの最古の池の処理が14年に本格化し、これまでに大型機材、核燃料の搬出を終えた。17年2月にヘドロ状物質の除去と密閉容器への移管が始まり、19年から水抜きする。既存技術の応用や大学、ベンチャー企業との連携でヘドロ処理は計画よりも10年早く進み、費用は半分の約1億ポンド(約150億円)にとどまったという。

 大量の高濃度汚染物質の最終処分地は未定で、今後コスト増をもたらす可能性がある。息の長い複雑な作業を支える人材の確保も課題で、大学と廃炉技術やプロジェクトマネジメントなどの教育研究プログラムを設けて若手を育成する。(編集委員 安藤淳)