2018年5月13日日曜日

13- 日本は事故後も原発に依存と 小泉氏が警鐘

<原発のない国へ>全電源、自然エネにできる 小泉純一郎元首相インタビュー
東京新聞 2018年5月13日
 小泉純一郎元首相(76)が本紙のインタビューに応じ、原発事故後も原発稼働を前提とする安倍政権のエネルギー政策を「反省がない」と批判するとともに、「原発支援のカネを自然エネルギーに向ければ、原発が供給していた30%程度の電力は10年で自然エネルギーで供給でき、将来、全電源を自然エネルギーでできる国になる」と、原発稼働を直ちにやめ、自然エネルギーへの転換を促進すべきだとの考えを強調した。
 
 小泉氏は「首相の権限は強い。もし首相が(原発ゼロを)決断すれば、自民党はそんなに反対しない」と政治決断を求めるが、安倍晋三首相では「やめられない」とも述べ、原発ゼロの実現には首相交代が必要だとの考えを強調した。原発ゼロの実現を期待できる政治家として河野太郎外相の名を挙げた。
 
 自らが進める原発ゼロに向けた運動と野党との連携については「自民党の首相がそういう(原発ゼロの)決断をすれば、野党は黙っていても喜んで協力する」と否定した。
 
 小泉氏は福島第一原発事故後、「安全で、コストが一番安く、永遠のクリーンエネルギーだという原発推進論者の三つの大義名分がうそだと分かった」と指摘。「(原発事故後の)七年間(事実上の)原発なしで一日も(大きな)停電がない。原発ゼロでやっていけることを証明している」と、原発ゼロは即時可能だと強調した。
 
 また、使用済み核燃料の最終処分場建設の見通しが立っていないことに関し、「処分場を見つけられない原発を政府が認めることが不思議で仕方がない」と厳しく批判した。使用済み燃料を再処理して、燃料として再利用する核燃料サイクル事業は「破綻している。永遠の夢の原子炉と言われたもんじゅは故障で幻の原子炉になった。まさに無駄遣いだ」と撤退を提唱した。
 
 安倍政権が進める原発輸出政策については「危険性があり、自分の国で(原発建設が)できないから外国に売り込もうとする発想が分からない」と批判。
 
 潜在的な核抑止力になるとして原発を推進する意見には「なんで抑止力というのか分からない。日本が核兵器を持てるわけがない。そういうことを言う人の理論が分からない」とした。
 
 このインタビューは十一日午後、東京都品川区の城南信用金庫本店で行われた。
 
◆世界2040年に再生エネ66%予測
 2011年の東京電力福島第一原発事故後、国内の全ての原発が運転を停止した。しかし政府は再稼働を急いでおり、現在は関西電力大飯原発(福井県おおい町)など5基が稼働中。発電に占める原発の割合は16年度には1.7%に低下したが、政府はこの数値を30年度には20~22%に高める目標をエネルギー基本計画で示している。政府は来月下旬にも決める新たな基本計画でも、この数値を維持する方針だ。
 
 一方、海外では福島の原発事故後、ドイツ、韓国が原発ゼロ政策に転換。依存度引き下げを目標に掲げる国も相次ぐ。米情報会社ブルームバーグ・グループによると、40年時点で世界全体の発電に占める原発の割合は3.5%に低下。逆に、再生可能エネルギーは66.3%に上がる見通し。


<原発のない国へ> 事故後も依存、社会への警鐘
東京新聞 2018年5月13日
<解説> 小泉元首相が本紙のインタビューに答えた。未曽有の大事故を起こし、安全性や経済性が破綻しているにもかかわらず、なおも原発稼働に固執する日本の社会構造に対する警鐘と受け止めたい。
 小泉氏自身、五年以上の首相在任当時、原発推進論者の言い分を信じ、原発の抱える問題に疑問を抱くことはなかったという。
 それを一変させたのが原発事故だ。住民から故郷を奪い、事故を起こせばその処理や補償に膨大な費用がかかる。そうした現実を目の当たりにして「うそだった」と気付いたという。
 小泉氏が原発ゼロへとかじを切ったのは現職政治家当時、そのうそに気付けなかった贖罪(しょくざい)なのかもしれない。
 
 振り返れば、郵政や道路公団の民営化など小泉改革は、毀誉褒貶(きよほうへん)はあるものの、小泉氏自身が既得権益と位置付けるものを打破する「闘い」だった。
 それは安倍晋三首相との対比で再評価されている田中角栄元首相が築き上げたものへの挑戦にほかならない。原発推進のための電源三法をつくったのも、ほかならぬ首相時代の田中氏だ。
 小泉氏が主張する原発ゼロは「自民党をぶっ壊す」延長線上にあるのだろう。
 
 しかし、首相在任当時は高い支持率を維持した小泉氏でさえ、日本社会が長年浸ってきた原発依存構造を変えるのは容易ではない。
 政策転換には政治の強いリーダーシップが必要だが、小泉氏の声に耳を傾ける現職政治家は、安倍首相を含め、政権を担う自民党にはほとんど見当たらない。小泉氏が原発ゼロに向けた国民運動に取り組むのも世論の覚醒を促し、政治家に決断を迫る狙いがあるのだろう。
 結局、原発の在り方を決めるのは主権者たる国民自身であり、私たち一人一人が、原発に固執することのマイナスを真剣に見つめることが必要だ。小泉氏の一連の発言は、そう語りかけている。 (論説副主幹・豊田洋一)