2018年5月16日水曜日

審査打ち切り危機の「東海第2原発」 規制委の視察ルポ

 産経新聞が、11日に行われた東海第2原発原子力規制委による現地調査の様子を、「原発最前線」のコーナーで取り上げました。
 東海第2原発は今年の1127日までに規制委の審査に合格しなければ廃炉となりますが、現在の進捗状況は極めて鈍く、それに間に合うかは大いに疑問とされています。
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【原発最前線】
審査打ち切り危機の「東海第2原発」に“明日”はあるか 規制委の視察ルポ
産経新聞 2018年5月15日
 日本原子力発電は5月11日、東海第2原発(茨城県東海村)で、原子力規制委員会による現地調査の様子を報道陣に公開した。11月27日に運転40年を迎える東海第2は、この日までに規制委の審査にすべて合格しなければ再稼働できず、廃炉となる。審査は予定より後にずれ込んでおり、予断を許さない状況だ。今後が注目される東海第2をルポする。(社会部編集委員 鵜野光博)
 
40年目前も「生きた原発」
 「ここに約2200体の燃料が入っています。使用済みは1250体。中で光っているのが新燃料ですよ」
 使用済み燃料プールの水は青く澄み、目をこらすと、中で四角形の燃料体がいくつも並んでいる様子が見えてくる。どれが新燃料なのか、記者には分からない。ここは東海第2の原子炉建屋6階にあるオペレーティングフロア(オペフロ)。見学中、今年2月に取材した東京電力福島第1原発3号機のオペフロのことを思い出していた。
 
 原子炉の直上にあるオペフロでは通常、燃料交換機を使った作業などが行われている。福島第1では防護服と顔を覆う半面マスクを身につけ、滞在時間は30分程度に限られた。建屋の水素爆発によって高線量のがれきがフロアに散乱し、炉心溶融(メルトダウン)で放射性物質のガスが一時充満したためだ。使用済み燃料プールの一部にはがれきが沈み、水は濁っていた。
 それに対し、東海第2では、靴下と手袋、上着を「念のため」(原電広報)追加で身につけたものの、線量は通常の空間と変わりないという。両方のオペフロを比べると、事故によって「死んだ原発」(福島第1)と、「生きている原発」(東海第2)の違いは鮮明だった。
 
「明日」はあるか
 余談だが、2つの原発はオペフロに向かう途中のエレベーター付近でそれぞれ音楽が流れており、福島第1の3号機ではZARDの「負けないで」、東海第2では坂本九らに歌われた「明日があるさ」だった。「負けないで」は厳しい廃炉作業への応援歌に聞こえ、「明日があるさ」は再稼働への期待を示しているようにも聞こえる。ちなみに両方ともメロディーだけで、歌詞はない。
 
 ただ、この東海第2も、11月27日までに規制委の審査に合格しなければ「明日」はない。間もなく40年を迎える建屋や配管は、さすがに年月を感じさせるものだったが、この巨大な設備が審査の行方次第で無用な物となる。オペフロを見渡しながら、原電と規制委が負う責任の重さを思わざるを得なかった。
 規制委の現地調査は山中伸介委員らが担当し、午前中はオペフロで原電が最大60年の運転延長のために行った特別点検の内容について説明を受け、原子炉格納容器の中に入って設備の劣化の状況などを確認した。午後は使用済み燃料乾式貯蔵建屋の竜巻対策などを視察した。
 
「状況変わってない」と規制委
 午後3時半から山中氏は報道陣の取材に応じた。この日の調査の主眼だった運転延長については特別点検や対策を評価したものの、審査の見通しについては「11月までに間に合うか、非常に危機感を持っている」と改めて厳しい見通しを示した。
 東海第2が再稼働するには、11月27日までに「3つの合格」を得る必要がある。1つは新規制基準への適合を示す「設置変更許可」。通常の原発で合否が話題になるのはこれだ。さらに東海第2固有の事情として、40年を超える「運転延長認可」。この認可に関わる審査は施設の詳細設計についての「工事計画認可」を前提としている。規制委が危機感を持っているのは、工事計画認可の手続きが遅れていることだ。
 
 原電は工事計画認可に必要な実証試験を現時点で終えていない。山中氏は4月の規制委定例会合で「原電の審査対応は極めて遅い。サボタージュとさえ感じられる」と異例の表現で批判。「4、5月を超えて回答がない場合には、審査の継続そのものを考えていただく」とまで踏み込んだ。現地調査後にも「状況は変わっていない。1カ月がたっているので、いっそう危惧が増した」と述べた。
 更田(ふけた)豊志委員長も5月9日の定例会見で「場合によっては大きな判断をせざるを得ない」と審査打ち切りの可能性に言及。「6月上旬がポイントになる」と述べ、原電にこの時期までに安全性を立証するデータを示すよう求めた。
 
「一つ一つ進んでいる」と原電
 山中氏に続いて取材に応じた原電の和智信隆常務は、山中氏が「状況は変わっていない」としたことについて「いろんな形で(規制委に)説明しているので、正直、もう少し進んでいると思っていた」としつつ、「再度危機感を募らせて取り組んでいきたい」と述べた。実証試験については「いくつかのものについてはまだ試験をしている状況だが、一つ一つ進んでいる」とし、「報告は6月末を目指しているが、実験の途中経過を含めて、説明できるものから速やかに行い、規制委と見通し感を共有したい」と訴えた。
 更田氏が示した「期限」は近い。審査打ち切りとなれば、平成26年5月に設置変更許可を申請して以来の原電、規制委双方の労力が水泡に帰す。誰もそれを望んではいないだろう。
 東海第2原発 日本原子力発電の沸騰水型軽水炉(BWR)。日本初の大型原発として昭和48年に着工、53年に営業運転を開始した。原電によると、BWR1基として国内最高の総発電電力量の記録を保持している。他のBWRには東京電力福島原発、同柏崎刈羽原発などがあり、BWRでは柏崎刈羽原発6、7号機が昨年12月、初めて新規制基準の適合性審査に合格した。